終電まであとわずか。
真っ直ぐ駅に向かえば間に合う時間に執務室を出た。
「職場を出る技術」は業務スキルを上回る
「終電」という言葉は、お守りに似ている。
【帰宅祈願】というお守りを神社で売っていたら、中にはきっと「終電だから」と書かれたお札が入っていることだろう。
帰ろうとすると決裁書類を持ち込んでくる連中も、さすがにこの時間だと空気を読むのか、引き止めることもなく「おつかれさまでした」と言って大人しく見送って(見逃して)くれる。
( ↓↓↓ 『引き止め』の実態はこちらに書いてます)
(ひょっとしたら、彼らは三振を恐れて、先に帰ろうとする私を引き止めるのかもしれないぞ)
前回の「見逃し」がいつだったかは覚えていない。
今日見逃したということは、あと1回か2回目のときが勝負球を投げる(気づかれぬように逃亡する)時か?
帰り際に鳴った電話は、自分でとってはならない。誰かにとらせてもいけない。
今まさに部屋を出るという瞬間、私の席の内線電話が鳴るが、もはや無視。
コールを聞きつつ、部屋を後にする。
一応、他の係のものだろうが、室内で鳴っている電話は、お互い取り合う習慣になっている。
だが、この時刻なら相手だって、ちょっと鳴らして出なければ諦めるだろう。
放っておいていいと思う。
しかし、日中と同じように電話を取ってくれたのはMくん。
(↓↓↓ Mくんは、こちらの記事にも登場してます)
私はそちらを一瞬チラリと見たが、無視を決め込んでその場を離れた。
きっと「もう帰りました」と言ってくれるだろう。
「あ、はい。います。替わります」
深夜残業において『空気を読んではいけない聖域』がいくつかあるようだ。
「職場から出さない技術」があるからこそ「職場を出る技術」は輝く
たぶんMくんの辞書には【居留守は使うべからず】という戦陣訓(深夜勤務版)のようなものがあるに違いない。
うんざりした顔で部屋に戻ってきた私に「会計課のIさんからです」と言いながら、受話器を差し出す。
(ま、そういうもんですわ)とでも言いたげな顔で、ニヤッと笑う。
彼は2歳年下の関西人だ。
何とも憎めないタイプのヤツで、こういうときの「してやったり」という表情には苦笑せざるを得ない。
電話に出た。
一言答えて終了する案件ならば、終電の時刻にはまだ間に合う。
I氏:「ちょっと来て」
私:(・・・)
hachiwarenekoさんによる写真ACからの写真
帰れないやつだ。
帰れなくなるやつだコレ。
【こんなとき、リア充でないことは、人生最大の幸福だ】
そうやってクリアリングする技術を、霞が関の歴戦のつわものたちは身に付けている。
こうして「帰宅ミッション」はインポッシブルになった。
遠い昔の物語である