【感情会計】善意と悪意のバランスシート

善と悪の差し引き感情=幸福度

叱れない上司が部下たちの揉め事を目にした時の反応

【前回記事で設定した状況】

あなたの席から少し離れた場所で、なにやら意見の衝突を起こしているチームメンバーたち。

 

上司のあなたは、その現象にどう向き合うべきか?

ここで求められるのは「問題の解決」や「事態の収拾」のはず。

 

アサーショントレーニングで説かれる「アイ(I)メッセージ」など通用しそうにない状況です。

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「私は課長の〇〇だ。言うことを聞け!」

こう言えば直ちに部下たちが諍いを止めるような“肩書き至上主義”な職場ならば、それで片付くでしょう(恨みはかうけれど)。

けれども、それで済むならあなたは悩んだりしない。

 

上司の強権以外のもので対処しなければなりません。

肩書きは、この場を収めるアイテムのひとつではあるでしょうが、やはりあなたの人となりをベースに、部下たちと接する必要がありそうです。

 

 

職場で、『知るためのコミュニケーション』を使い分ける

前回記事でふれたアイメッセージを使って、たとえばこういうのはどうでしょう?

 

「部下であるあなたたちがそこで言い争っていると、そのうち上司のわたしに『解決してくれ』と求めてくるんじゃないかと思って、とても不安な気持ちになるんだ」

 

笑っちゃいそうですが、大真面目に書いてみました。

どうですか?

いかにもアイメッセージ的文脈ですが、これが果たして業務現場で「上司が部下に対し発するフレーズ」に相応しいかどうか?

 

アイメッセージを重視する私でさえ、これには賛同できません。

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まつなが ひでとしさんによる写真ACからの写真

 

むしろ、上司がこんな発言をしたら、アイメッセージの価値が下落しないように、その上司の物言いに「NO!」を突きつけたくなります。

型どおりの文章さえ作れりゃいいってもんじゃありませんよ! と

 

問いかけるのは「言葉」だが、物を言うのは『行動』

前の記事で、他のメンバーと揉めている真っ最中の部下に、メールで「どうした?」と訊くのはNGだと書きました。

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ここはやはり、あなた自身が乗り出したほうが、ことはうまく運ぶはずです。

 

そこで、例として5パターンを示してみます。

違和感をおぼえる方がたくさんおられると思いますが、一つひとつ説明していきます。

 

Ⅰ:「どうした?」と、自席から部下たちが揉めている場所に移動して質問する

Ⅱ:「どうした?」と、自席に座ったまま声をかける

Ⅲ:「どうした?」と、あなたの腹心の部下に訊きに行かせる

Ⅳ:「さっき揉めてたの、何だったの?」と、当事者のひとりに質問する

Ⅴ:(さっきのゴタゴタは何だったんだろう?)と、そのとき現場のすぐ近くに居た、当事者以外の人に訊いて回る

 

私は前回の記事で

「『知りたい』という気持ちを抱き、その気持ちをどんなふうに表し、部下たちに接していくのかは、“自己表現(アサーション)”のひとつ」と書きました。

 

部下たちの側にしても、自分たちの諍いに上司であるあなたが関わってくれる(少なくとも関心を持ってくれる)ことを強く望んでいる可能性があるので、あなたの自己表現手法が注目される瞬間かもしれません。

 

「即座に」は「私は今すぐ関わりたいと思っている」を表す

パターンⅠ~Ⅲに共通するのは即時性です。

「揉めごとに『今』対応しよう」との意思が明確なだけに、関心の高さは問答無用に部下たちへ伝わるはずです。

 

それぞれ、ディティールの違いを見ていきましょう。

 

 Ⅰ:「どうした?」と、自席から部下たちが揉めている場所に移動して質問する

即座に足を運び、現場に我が身を置いたうえで、話を聞く姿勢をとる。

これは説得力のある姿ですね。

 

このとき、たとえ内心では、先ほどの情けないアイメッセージ

「部下であるあなたたちがそこで言い争っていると、そのうち上司のわたしに『解決してくれ』と求めてくるんじゃないかと思って、とても不安な気持ちになるんだ」

 

と考えていたとしても、行動自体は毅然としています。

 

また、一旦こうやって関わり、部下たちとやり取りを交したうえで、上記のセリフを冗談交じりに言うのなら、アイメッセージは効果抜群でしょう。

 

「ホントは怖かったんだよぉ~」という弱気の露呈がユーモアあふれる愛嬌になりそうです。

部下たちも、内心の弱さを正直に堂々と打ち明けてくれるあなたに親近感をおぼえ、一層よき関係が形成される期待もできます。

 

Ⅱ:「どうした?」と、自席に座ったまま声をかける

揉めている現場に我が身を運ぶ「Ⅰ」に比べると、離れた位置に身を置いたままの「Ⅱ」は、少し受け身な印象があります。

実際に、面倒くささを感じて逃げ腰になったときに、このようにしてしまう人もいるでしょう。

 

ただ、揉めている部下たちに向け、離れたところからある程度の声量で話しかけるというのは、それなりの度胸が要ります。

 

「揉めている」ということは、それなりに事情が複雑なことがある。

また、各人の思惑が絡み合っています。

 

端的に一言でまとめるにはそれなりの技量と冷静さが要るでしょう。

 

「どうした?」と訊ねられた部下の立場としては、あなたが近くまで身を運んでくれれば、通常の声量のまま『文章』で説明できますが、離れた席に座ったままのあなたに対しては声量を上げて話す必要が生じます。

 

長々とは続けられないため、遠くにいるあなたに対しては必然的に『トピック』で答えさせることになります。

 

部下は昂ぶった気持ちのまま、複雑な事柄を瞬時に要約しなければなりません。

 

中には「お母さんに言いつける子供」みたいな稚拙な言い方をして、恥をかく部下もいるでしょう。

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niboshi-nekoさんによる写真ACからの写真

 

周囲でその光景を見ている他の人たちに対し、ずいぶんみっともない姿をさらすことになりかねません。

 

「恥をかかされた」と、あなたに憤りを感じることがあるかもしれない。

 

いずれにしても、ここで重要なのは「部下があなたの自己表現をどう受け止めるか?」ですから、現場までやってこないあなたの姿勢がどう受け取られるか?

 

良い印象にはなりづらい気がします。

 

少なくとも、あなたが「受け身」な点は、なんとなく部下側にも伝わったのではないでしょうか。

 

Ⅲ:「どうした?」と、あなたの腹心の部下に訊きに行かせる

あなたがかなり上位のポジションにいるなら、この手法には正当性があります。

 

揉めている部下たちよりも2段階、3段階を経るぐらいの上位にいるなら、そんなあなたがわざわざ現場に出向いてしまっては、その部下の直属の上司に気を使わせてしまいます。

 

事情を知りたいなら代理の誰かを、それとなく事情聴取に行かせたほうが良いかもしれません。

 

部下たちも、直属上司よりも上の人が関心を持ってくれていることを知れば、安心感を抱きつつ出世の期待値も高まるなど、プラスに傾くことも考えられます。

 

ただし、直属上司のあなたがこれをやったら色々な問題が起きます。

 

「腹心の部下」が、揉めている部下たちと同列のポジションにいる場合、なぜ「腹心」なのか?

えこひいきが原因だとしたら、すでに職場環境の悪さを露呈しています。

 

仮に、「腹心の部下」がサブリーダーぐらいの立場ならば、あなたの代理で事情を聞きに来た理由は成り立つかもしれませんが、よほど大きな部署でないかぎり、目の前の事象にわざわざ代理を立てようとするあなたに、部下たちは心を開くだろうか?

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bBearさんによる写真ACからの写真

 

階級差を効果的に使うなら、もう少し大きな組織の長に就いたときのほうが良く、小部隊にいる今の時期の部下こそ、大組織の長になったときのあなたの腹心とすべく、積極的に心を掴んでおくほうがよい気がします。

 

「あの上司、こんな小さな集団の長になったくらいで、もうトップ獲った気でいるのか? 終わってんな」

 

そんなふうに思われる関係が成立してしまったら、今後アイメッセージで好転させる難易度は大幅に上昇してしまうでしょう。

 

「即時性のある対応」のまとめ

さて、これらの3パターンが、あなたの即時性を部下に示したケースです。

いずれもそれなりに能動的な印象を抱かせますが、「Ⅰ」には渦中に飛び込んだ際の実務能力やアドリブ力といった、あなた自身が実践者となった場合の能力が必要な場合が多いでしょう。

 

「Ⅱ」は、あなたの質問に部下が対応しやすいか?という想像力や判断力が問われることが多いと思われます。

自分に報告する瞬間の部下の立場(実践者の状況)に立つなど、少し受け身になる分だけ、より相手の目線でものを見る配慮が必要です。

 

「Ⅲ」は、あなたの代理人が行動するため、代理役の部下がソツなく役目を果たせるような常日頃の教育や場作りといったマネジメント力が要求されるため、一定以上の条件を満たした人以外は安易に使えなさそうです。

 

どうやらあなたが前線から離れるほど、現場のコントロールが難しくなってくるようですね。

 

しかし、一般的に管理職とはそういう機会が増えてくる役割ですので、「業務スキル」と「人間関係力」の掛け算が活きてきます。

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pho-to-coさんによる写真ACからの写真

 

業務スキルオンリーで叩き上げてきた人が、昇進をきっかけに空回りし始めるのは、求められる値があなたの掛け算の答えよりも大きくなってくるからかもしれません。

 

そうなると、乗数の「業務スキル」だけを磨いてもさほどの成果はなく、被乗数の「人間関係力」を増やしていくことが結果につながってきます。

 

上記の事例の場合「現場からの距離が近くても遠くても一定の結果を出せるようになるためには、『受け』と『攻め』のバランスを上手く操れたほうが良い」ということに繋がります。

 

部下たちが揉めている状況を目にしたとき

(何が起きてるのか、知りたいな)というあなたの気持ちを、部下にどう表現するか?

 

こういう主旨のアサーショントレーニングがあっても良いと思うのです。

 

ということで、即時性の3パターンについてはいったん終了します。

何を揉めていたのか、後から知ろうとするⅣ、Ⅴは、こうして順に見ていくと奇異な感じがしますが、受け身タイプの人がついやってしまう行為ではないでしょうか。

 

Ⅳ:「さっき揉めてたの、何だったの?」と、当事者のひとりに質問する

Ⅴ:(さっきのゴタゴタは何だったんだろう?)と、そのとき現場のすぐ近くに居た、当事者以外の人に訊いて回る

 

この2つについては、次回の記事で書いてみたいと思います。