自分の部下同士が揉めているのを目にしたとき、上司のあなたはどのように捉え、接していくか?
例として5パターンを挙げ、Ⅰ~Ⅲまでを『その場で反応するもの』、ⅣとⅤを『後で関わるもの』と分類しました。
Ⅰ:「どうした?」と、自席から部下たちが揉めている場所に移動して質問する
Ⅱ:「どうした?」と、自席に座ったまま声をかける
Ⅲ:「どうした?」と、あなたの腹心の部下に訊きに行かせる
Ⅳ:「さっき揉めてたの、何だったの?」と、当事者のひとりに質問する
Ⅴ:(さっきのゴタゴタは何だったんだろう?)と、そのとき現場のすぐ近くに居た、当事者以外の人に訊いて回る
概して、その場ですぐに対応するほうが、後から動くのと比較するとシンプルで部下ウケがよい傾向がありそうです。
また、即対応のパターンの中でも、より自分が前面に出ていくやり方のほうが、変にこじれることがなさそうだという結論が出ました。
もちろん、職場や構成員のキャラクターによって、最適な対応方法は異なってくると思います。
四緑文鳥的 対処方法
私自身もこういう場合、その時々でやり方は違うし、ちょっとしたアレンジを加えながら対応します。
私の対応で多いのはⅠとⅡで、あとはⅣを用いることがあります。
いずれの場合も間近で接するか、それに近いインパクトで対応します。
Ⅰの場合(現場急行パターン)
Ⅰの「揉めている場所に移動して質問する」を実行する場合、そっと近づくことはほぼありません。
『接近中オーラ』を強烈に発しながら現場へ向かいます。
近づいてくる私に気づいて論争中の話し声が尻すぼみになる場合は、こちらの意見を聞く体制に入っていると考えてよい。
中には、接近中オーラを感じつつも無視を決め込み、余計に声を張りあげてしゃべり続けるメンバーがいたりします。
しかし、その場合は「ああ、コイツだけ感情的になってるな」という情報を提供してくれているわけなので、こちらは最初からそのつもりで接すればよいことになります。
「解決」でなく「自己表現」なら自由そのもの
改めて繰り返しますが、今回のテーマは“アサーション(自己表現)”です。
『部下たちが揉めている状況を目にしたとき
(何が起きてるのか、知りたいな)というあなたの気持ちを、部下にどう表現するか?』
解決のロジックを見つけ出そうと思わなくて結構です。
逆に言えば、そこまでカッコよく決めきろうと思うから難易度が高くなってしまう。
「近くまでやって来たことを、部下にわからせればOK」という条件をクリアすればよいだけなら、やり方はかなり自由です。
実際に私は、揉めているすぐ近くまで来たのに一言も発さないことがあります。
しゃべっている一人ひとりの顔をしっかりとよく見て、黙ったままその場を離れるのです。
「妥当な内容だな」と思えたら、あえて口を挟まずに、ウンウンとうなずきながら去っていく。
少なくとも、言い合いになるほど互いの主張があるのだから、無気力なのよりはよほどいい。
この場合で面白いのは、すぐ横でジッと見られると全員が少し冷静になることです。
仕事を進めていくうえでの議論で感情が昂ぶったはずなので、ボルテージを少し下げて「言い合い」を「交渉」にするだけで事態が収まるケースは多いのです。
といっても、中には突っかかってきたスタッフも居ました。
「黙ってるならそんなトコに突っ立ってないで下さいよ!」とか・・。
まあ、こうなったらそれこそ自由度が高まりますね。
「いや、放っておいたら殴り合いでも始まりそうな勢いだったから心配でね」
「ああゴメン。声がかけられないほど熱中してたから、つい見守っちゃって」
という平和的なコメントでも良いし、私のようなガラの悪い人間だと
「うるさいよさっきから。仕事の邪魔だ」
「議論なのかケンカなのかわからん。やる場所が間違ってないかを確かめてる」
と、相手以上の毒気を出す場合もあります(それが効果的と判断される場合は)。
Ⅱの場合(自席から問いかけパターン)
Ⅱの「自席に座ったまま声をかける」で問題になるのは、事情を説明する側である部下の負担が、上司のあなたが思っている以上に大きいということでした。
離れた位置にいる上司に声を張って回答する場合、長々とした「文章」ではなく、短い「トピック」が望ましい。
冷静さを失った状態で、複雑な事情を理知的に思考し、整理されたロジックを端的にまとめられるくらいなら、最初から揉めなかったのではないでしょうか?
揉めているのはそれができなかったからで、できないことを無理強いしたら、それだけで上司は反感を買う恐れがあります。
短文で応じられる「閉じられた質問」で問う
私がこの「Ⅱ型」の対応をする場合、聞こえてくる話声から質問内容を絞り込んで“イエスorノー”で回答できるような、いわゆる「閉じられた質問」の形式で声をかけます。
「どうした?」という漠然とした訊き方をしないだけで、状況はかなり変わってきます。
ただしこの場合、質問のレベルが高くないとリスクが大きい。
部下たちが呆れてしまうほどピントのズレた質問をすると「話にならないなこの上司」と思われてしまいます。
実際、こういうズレた質問をする上司も多いと思いますが、権力を振りかざして部下を抑えこんでいる場合、そこを指摘してくれる人がいないため自分のピンボケ具合には気づけません。
ただ、この記事で取り上げているのは「部下に気後れして叱れないタイプ」の人なので、部下は蔑んだ態度を顕わにし、あなたは傷ついてしまいます。
揉め事で発されている言葉の断片から、論点が明確な場合には「自席から声をかける」という方法も有効ですが、そうでなければ空振りすることがあるので要注意です。
「よく分からないから、現場に足を運ぶ」という態度をとったほうが安全ではないでしょうか。
Ⅳの場合(後から事情聴取パターン)
「揉めごとが収まった後に、当事者のひとりに質問する」は、「上司であるにもかかわらず、リアルタイムで当事者になろうとしなかった」という部下からの不信感や不満を抱かれる可能性を否定できない点が問題でした。
しかしこれは、後になって「自分が嗅ぎ回る」のが一番の問題なのだと思われます。
「後で相談に来させる」ならば、状況は全く違ったものになります。
これは部下側に「さっきの件なんですけど…」と相談したい気持ちを起こさせられるかどうかがポイントになります。
結局は「その瞬間にどう振る舞ったか?」
私はⅠのケースで、現場まで足を運んでおきながら、一言も発さずにジッと見ていることがあると書きましたが、これを応用することがあります。
部下が揉めているのを遠くからコソコソと盗み見たり、全く気付いていないフリをするのではなく、「見てるぞ。聞いてるぞ」という態度をあからさまにします。
たとえば、
「作業中の自分の手を完全に止めて机に両肘をつき、両手にアゴを乗せて真っ直ぐに見つめる」
「椅子の背にもたれて少し首を傾けつつ、片手ずつゆったりと揉みながら見守る」
など。
論争が収まっても疑念が残ったままのメンバーがいることは多い。
この場合、あなたが紛糾の当事者に加わらなかったことが、部下にとっては「駆け込み寺」的な意味を持つことがあります。
あなたが話をしっかり聞いていたことが分かっているので、部下も話がしやすい。
「何があったの?」なんて聞かれたら、論争の結果に不満を抱えたままの部下は、かえって心を閉ざしてしまう場合がありますが「ちょっと聞いてくれませんか?」とあなたの元にやって来た部下は、最初から心を開いています。
「見てるクセに黙ってやがった」と思われると厄介なので、実行する場合には注意が必要ですが、上手くいくと効果抜群な方法です。
「見ているアピール」が空振りした場合
ちなみに、せっかくのあなたのジェスチャーが、部下たちに全く気付かれていない場合はどうすればよいのでしょうか?
そのときは、自分に言い聞かせる。
「私はすでに向き合っている」
逃げた自覚がある場合は、後で部下に質問するとき卑屈になるが、あなたは逃げない意思をもって、部下たちの様子を見守った実績があります。
堂々と言えば良いでしょう「見ていたけれど、さっきのあれは〇〇〇ということ?」と。
このときのあなたは、逃げたという良心の呵責がないため、その点での卑屈さはないはず。
「あえて黙って見ていた」と言える。
まあ、大声の論争を10分も20分も自席から眺め続けていたのなら別ですが、そうでなければその振る舞いには正当性があると思います。
まとめ
結局のところ、部下が揉めている場合の上司の対応には、「ただ一つの正解」などという都合のよいものはないと思います。
不変のマニュアルがあればありがたいかもしれませんが、個人的には、そんなものがあるようでは面白くない気がします。
唯一絶対の手法があり、誰がやっても同じ結果ならば、そこにいるのがあなたでなくてもよい。
もっと賃金単価の安い人員にやらせておけばよいし、機械に任せれば人件費は不要。
営利企業ならば是非ともそうしたい。
しかしそんなことになったら、せっかくのあなたの有用性が、薄れてしまいます。
ではどういう基準で、取るべき態度を決定していくのが良いか?
マニュアルではなく、ポリシーならば、普遍の「あなたらしさ」で貫き通すことが可能です。
意外にも「矢弾が飛び交う安全地帯」
参考までに、私自身が今働いている現場の状況でいうならば、私のポリシーは
『何か起きた場合、自分はお客さんに一番近い場所に陣取る』
面倒なことが起きた時、“隠れられる場所” は奪い合いになりがちですが、最前線に身をさらす場所は皆が避けるので、ほぼブルーオーシャンです。
そのポジションを迷わずとれるのが「業務スキル」の象徴である仕事の場合、スキルを高めることで自然と周囲の信頼を集め、自由自在なアサーション(自己表現)がしやすい上司に近づける気がします。
幸いなことに私の仕事はBtoBで、エンドユーザーは日本有数のグループ企業です。
相応のセレクションを経て入社し勤め続けている方々なので、誠意を持って接すれば、非常に高い理解度をお持ちになっているお客様です。
ならば、普段からどんどん踏み込み、付き合いを楽しんでおくこと自体がリスクヘッジになりますし、そうすることで業務スキルは自動的に磨かれます。
迷ったら「人が行かないほう」を選択するリスクとリターン
上に挙げた私のポリシーの話は、「接客」が皆が避けたがる業務でなくとも応用が利きます。
たとえば「監督官庁」とか「上位部署」、「怖い上司」、「面倒な作業」など、人の嫌がる業務全般についていえることだと思います。
結局、管理職とはそういった面倒ごとを含めて自分の組織をまとめることになってくるので、「業務スキルを高める」は、単なる「好きなことの追求」ではないと自覚し、会社員として勤めるかフリーランスになるかを選ぶのも一つの方法だと思います。