私のブログの中で、どういうわけかコンスタントにアクセスされる、「蘇る金狼」関連の記事について、先日ふれてみました。
例によって食事シーンのことを書きたいと思いつつ、その前提として「主人公・朝倉哲也の給料で、どのくらい食べていけるのか」という”朝倉のフトコロ事情”を簡単に検証してみます。
『孤独のグルメ』井之頭五郎は食欲に見合う収入がある。朝倉哲也にはそれが無い
『蘇る金狼』が連載されていた昭和37~39年付近で、劇中の設定どおり、11月9日が水曜日になる年は以下の2つです。
昭和35年(1960年)
昭和41年(1966年)
探してみたのですが、何年であるかの記述がありません。
どちらなのだろうか?
安月給の朝倉くん(大卒29歳)
舞台設定と時代背景を詳しく調べれば、この作品が昭和35年か、はたまた41年かがわかるのかもしれません。
しかし、残念ながら私にそんな力はない。
そこで、朝倉の給料から推測してみます。
朝倉徹也は、大企業の社員ではありますが、ヒラの若手で、給料はかなり安めらしいです。
月の給料は31,700円。手取りは約25,000円だそうです。
年間に給料5か月分のボーナスがあるので、やっと人間並みの生活が送れるという描写があります。
そこで、当時の一般的な29歳のサラリーマンとして、月給31,700円が薄給という情報から類推します。
大卒初任給との比較
人事院資料によれば、昭和35年の国家公務員上級職の初任給は10,800円です。
民間企業ならこれより2~3千円高いですが、それでも1万3千円~1万4千円でしかない。
朝倉の31,700円と比較すると、年齢に6歳の開きがあるとはいえ、金額に差があり過ぎな気がします。
6年分の昇給を加味しても、まだ朝倉の受給額に届かないでしょう。
となると、『蘇る金狼』の舞台が昭和35年と考えるのは、どうも無理があるなという印象です。
一方、昭和41年の国家公務員上級職だと、初任給は22,100円に上がっています。
この時期でも民間企業の大卒初任給は公務員より2~3千円高いという資料がありますので、新卒の23歳でもかなり朝倉の月給に近づくと思います。
そこに6年分の昇給が加わり、同じ29歳という線で考えたら、たしかに朝倉の31,700円という給料は安めなのかもしれません。
古本を売って月の手取りの10%を得る
劇中に、空腹に耐えかねて目を覚まし、食べるものもお金もないので、不要の本をありったけ抱えて古本屋で売り払うシーンがあります。
このときの買い取り額は2,500円。
月の手取り額の10分の1です。
現在に置き換えて単純に計算すると、仮に手取りが30万円の勤め人が、ブックオフで本を売って3万円を手に入れたようなものです。
朝倉は手に入れた2,500円で「半キロのボロニアソーセージと卵5個うと、そのうちの500円が消えた」ということです。
令和3年で「ボロニアソーセージを半キロ」買っても朝倉の手元には余裕が残る
一方、令和3年に置き換えた古本の買い取り代金3万円。
その5分の1といえば6千円ですが、令和3年で500グラムのボロニアソーセージを買ってもそこまで高くない。
たとえばこのボロニアは1個が500グラムで1キロセットですが、価格は3,160円です。
朝倉が購入した倍の1キロを買っても、金額的には半分程度。
これに卵5個を買い足しても2千円は確実に手元に残せます。
食物のロジスティクスが現代ほど整っていなかった影響でしょうか。
朝倉がボロニアを手に入れるには、今よりもコストがかかったのかなと想像すると、『蘇る金狼』を読むうえでの深みが増します。
大藪作品を楽しむ秘訣は「食事量」と「主人公のサイフの中身」
そんなわけで、安月給の朝倉にとって、全般的に食事は安上がりな内容にならざるを得ない。
でも、そこをしっかり書いてくれることで、われわれ読者はリアリティーを持って作品を楽しむことができます。(←私だけかも)
今後数回、この物語の時代設定と思われる昭和41年の11月9日から、朝倉徹也の日々の食事シーンを抜粋して、彼の驚嘆すべき食べっぷりを記録していきたいと思います。
ハードボイルド作品のはずなのに、ここまで連日の食事が欠かさず記述されていることに、誰よりもまず私が驚いたのですが、あのジャンルの作品って皆こんな感じなんですかねえ?