しつこいようですが、どうしても気になるのでさらにちょっと考えてみました。
「賃上げ税制」についてです。
これを利用するメリットが、私にはイマイチ理解できない(皆さんはどうでしょうか?)。
『所得拡大促進税制』
よくよく見れば、この名前自体が相当危険な香りを発している。
謳われているのは、企業にとってのメリットではない。
”所得拡大” というのは、「給与の支払者」たる企業から見たら正反対の位置にいる「使用人」にとってのメリットを指していて、そちらがメイン。
「企業は、メインの負担を受け入れたら微かな駄賃がある」という意味になる。
”賃上げで税額控除”も良いが『控除は単発、経費は継続』
従業員に報いてやれるなら、それはいいことじゃないか。
なにをケチ臭いことを考えている?
その意見もごもっともではありますが、だからといって「報いる」がゆえに無理をして経営が破綻したら、従業員は職を失ってしまう。
今はあちこちで”破綻” が猛威を振るっている時期ゆえ、経営者としても彼らに就業場所を失わせないために何ができるかという「報い方」を、かなりシビアに考えなければならない。
まずは、継続的に事業を回していくべきだ。
そこで「賃上げ税制」を使って、なんとか状況を打開できないか?
期限付きキャンペーン
今回の賃上げ税制は、令和3年4月1日から5年3月31日までに開始する年度に限定されています。
増額させた給与の30%の税額控除がどこまでありがたいかはともかく、そのありがたさも長くは続かないことが明示されている。
それに、賃上げと引き換えの30%税額控除が、実質的に額面通りの見返りであるとはどうしても思えないことについてはこちらの記事に書きました。
そして何よりも「前年度と比べて」なので、今年はなんとかカンフル注入的に頑張って賃上げしてみたとしても、もしもそこで息切れしたら来年はこの税制の適用は受けられない。
「賃金が上がらないのが常の姿」という事業場で「賃上げ税制」は大ごとになる
定期昇給が当たり前にある会社の方にはピンと来ないかもしれませんが、賃金が上がらない環境下では、スポットでも給与額の上昇があると、激震が走ります。
悲しいことに、業務は激化していくというのに「給与は据え置き」、それどころか「減額」される会社の話も聞きます。
また、非正規労働者の場合には、雇用契約の更新が数か月おきに行われることも多く、更新面談の都度「時間単価を下げられてしまうかも」と不安になる状況に置かれることもある。
それこそ「ジョブが無くなって職を失ってしまうより、そんな条件でも継続するほうがマシ」と言える状況ですが、それは会社にとっても同様で、事業存続をかけたギリギリの線なのかもしれません。
そんな中で、苦しい局面の脱却を求めて賃上げ税制に乗っかるなんて、”世紀の大挑戦” と言える。
労使で痛みを分け合って平衡を保つことで、双方なんとか生きながらえている状態だったのに、労働者側の分銅を大きく増やすことになるからです。
手堅く守った挙句ジリ貧になるか、冒険して一発逆転を狙うか?
賃上げとはそんな心境で手を出すものではなさそうです。
「税額控除」は「人件費増」との連続性がない
「人件費増」の裏打ちは「業績向上」のはず。
事業者向けの税制で吊って、所得を上げるというのが、どうにも無理筋に思える。
商品価格が値上げできなければ、人件費へも跳ね返らない。
増税で値段が上がるのは、純粋な原価上昇の価格転嫁を妨げる。
不況下での消費増税なんて、人件費を上がらなくする大きな要因の一つでしょう。
いいかげんにしろよ財務省
「賃上げ税制キャンペーン」と「通販サイトのキャンペーン」が同じに見える
「賃上げ税制」についての私の印象・・
「楽天買い回りキャンペーン」で、ポイント欲しさに当分必要ないものを頑張って買ったが、キャッシュはその何倍も出て行ってしまったのと、性質は変わらない気がする。
意外に早く次の「買い回りキャンペーン」がやってきたときには、家の中には不要なものがあふれかえり、通帳の中の余剰資金は底を尽いていた、なんてことになったら・・
「買い物の楽しみ方を失敗したぁぁ!」
買い物が好きで、息の長い楽しみ方をしたいなら、こういったキャンペーンに迂闊に乗っかって無理をするのは禁物です。
必ず、見せかけのリターンをはるかに超える支出が、大きく口を開けて待っている。
情報通で、かつ機敏に動くタイプであればあるほど、そのリスク回避の技術も分厚く用意していなければ、まんまと仕掛けにハマってしまいます。
賃上げ税制キャンペーンも「利用者の自己責任」
商売を仕掛けた通販業者側の策略に乗っかって、見事にやられてしまったとしても、個人の余剰資金を使ったショッピングなら、それでいいかもしれない。
しかし、自分が生涯をかけて取り組みたい事業や、縁あってそこに集ってくれた従業員の生活がかかった会社経営にまで、そんな感覚を転用するわけにはいかない。
仮に、国が「1.5%以上の経費増加」でいくばくかの恩恵を用意したというなら、来年度の業績は昨対何十パーセントかは上がってもらいたい。
企業は常に先々の見込みまでをセットで、今を判断しなければならない。
ところが、国は令和3年4月から5年3月までのことしか面倒は見ないと言っている。
(一応、賃上げ税制自体は平成30年から15%税額控除をしていたようなので、令和5年以降も形を変えて継続する可能性はあるが)
<参考URL:中小企業向け所得拡大促進税制ご利用ガイドブック>
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/syotokukakudaiguidebook.pdf
しかし、いったん上げてしまった賃金を下げるのは難しい。
「だって、税制が変わっちゃったからさぁ」と言っても、従業員は納得しない。
経営者が給料を上げた決断を、国のせいにはできません。
一方、国のほうは事業者のせいにします。
「だって、競争力無いくせに無理な人件費アップなんかしてつぶれる会社が多いからさぁ」
欲しいのはその場しのぎのカンフル剤じゃない
もしも、令和3年に引き続いて来年も賃上げ税制を活用したいなら、前年度よりさらに給与総額を、所定のパーセンテージまで上げていなければならない。
今年打ったカンフル注射(人件費増大)の反動でボロボロになった身体に、もう一回カンフルでブーストする。終わりの始まりかもしれない。
中小零細の経営者や、経営に携わった方なら経験があると思いますが、月次損益の試算表で販管費を見て【給料】【地代家賃】の突出具合に目を奪われたことはないでしょうか?
むろん、どんな事業かによって経費額の凸凹には個性がありますが、賃借りのオフィスで従業員を使っている場合、大体はこの項目が特に目立つと思います。
「なんとかこの二つを改善できないだろうか?」
そう思いつつ、他の経費よりケタ違いに嵩む【給料】【地代家賃】を凝視しながら、日に何度もスタッフの顔ぶれを考え、”ドラスティックなコストダウン” のことを考えたり、「減った人数ならもっと狭い場所へ引っ越して、家賃を下げられる」などの危険な妄想をした方はいないでしょうか?
政府都合のキャンペーンに、わざわざ【給料】の経費を継続的に嵩増しして、申し訳程度の ”控除ポイント” をもらいたいとは、少なくとも私は考えない。
やはり、賃金の問題を何とかしたいなら、事業者と労働者双方の可処分所得を増やせる ”社会保険料減税” こそ、国家が行う所得拡大の第一歩だと思いますがどうでしょう?