【感情会計】善意と悪意のバランスシート

善と悪の差し引き感情=幸福度

はたらき者の死神(無防備な "闇” を握られると負ける)

一見、活気のある職場に潜む、根の深い問題。

生産性の名のもとに行われる ”改革” は、短絡的な解釈で勘違いを生みやすい物の一つです。

 

たしかに「生産性」と「利益」には相関関係がある。

しかし、”相関関係” とは全くつながりが無くても成立する関係です。

 

「アイスクリームがたくさん売れると、溺死が多くなる」

これも相関関係の一つになります。統計上もそうなるらしい。

 

しかしこれは「夏」という条件の中で起きやすくなる現象をトピックとして並べただけです。

つまりアイスと溺死には相関関係はあるけれど『因果関係』はありません。

 

 

「相思相愛」「同床異夢」な助言者と実行者

 

一見説得力を持つ ”相関関係” は、たとえ最短距離にあるように見えても、実は種類が全く違うものかもしれません。

 

企業の生産性は、長期的に安定して確保されるのが理想です。

 

短期的に見栄えの良い結果を残したはいいが、そこで企業の体力が尽きたら元も子もない。

 

儲けの第一は「自分自身」の助言者

しばらく前にネットの記事で、かつて海外でカリスマの名声を得て引っ張りだこだったコンサルタントの話が紹介されていました。

 

彼は短期間に次々と業績を上げ、多くの企業から感謝されたそうですが、なぜか彼が去ったあと、右肩下がりに落ちて行ってしまう。

 

「やはり、カリスマコンサルタントである彼の存在が偉大過ぎたせいか?」

いや、そんな理由ではない。

むしろ、このカリスマコンサルは『はたらき者の死神』だったらしい……

 

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このコンサルタントは、実はリストラを繰り返して決算上の利益を上げて見せていたそうです。

 

人を減らし、設備投資を抑えて帳簿の健全化を図るので、実質的に企業内の戦力が犠牲にされる

 

しかし、その影響が顕著に出てくるのは中長期だというのが、彼がサイレントキラーとしてその正体を見破られずに君臨できた理由です。

 

たしかに短期的にはコスト要因がカットされ、経営はシンプルな合理化が成されたように感じられる。

カットされたコストは減り、たとえ売上が伸びなかったとしても、利益はアップする。

 

売上の伸び悩みについては

「体質が改善される過渡期特有の現象です」

「改革に伴う一過性のルーチンです」とでも言っておけば言い訳が立つ。

 

それに、得意げに披露した新体制での拡販策検証はこれからの話なので、奇麗ごとを並べるだけでも会議は成立する。

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たとえて言えば、通販番組の放送を見せた程度の説明でも、カリスマコンサルとして信頼されていれば、その時点では体裁が保てる。

 

儲けは助言者とともに去り、取り残された実行者

一方、助言を受けて改革を実行した経営者も、美しくシェイプアップした自社の新体制にウキウキしている。

 

果たして新たな布陣が自社の体質に合うものかどうかはわからない。

しかし、何社も業績を上向けてきたカリスマコンサルの言うことに間違いはあるまい。

 

「これが最先端の経営手法だ」と期待が膨らんだ分、目の前の現実には目隠ししてしまう。

 

多少の不整合があってもそれはコンサルが言うとおり、過渡期だけの現象だと考えるよう、最初の段階でしっかりコントロールされている

 

この新体制でのスタート後、しばらくは逆風・激震・陥穽などがあっても「一過性の出来事に違いない」と、文句も言わずに健気に努力するでしょう。

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やがて、リストラの生き残り競争を勝ち上がった少数精鋭のスタッフの中から、越えられない壁に力尽きるメンバーが発生。

「少数精鋭」なので、一人倒れるだけで事業運営に深手を与え、現場は急激に疲弊する。

 

そして経営者が遅まきながら現実を直視した時にはもう手遅れ、という結果を招き、いくつもの企業が死んでいったようです。

 

そのカリスマコンサルタントは、「スタートしてすぐに去っていくから成功に見えていただけ」という話が、そのネット記事には書かれていたのです。

(残念ながらその記事を探せず、コンサルタントの名前も見つけられないのですが)

 

つまり、カリスマコンサルが去ったから業績が下がったのではなく、信じたコンサルタントはコストカットの名のもとに自社の競争力を奪い、一時的な見栄えを良くしただけの存在でしかなかった。

 

生産性と『因果関係』にあるのは?

上でふれたコンサルタントは「生産性」と「利益」が、あたかも『因果関係』であるかのように振舞った。

 

実際には彼が手を出したのは「コストカット」と「利益率」の因果関係と言えるのではないかと思います。

 

本来、生産性とはもっと大きな枠組みで取り組まなくてはならない、高度な戦略のはずです。

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おそらく順番でいえば、売上の確保と品質の維持または向上が先で、まずは体質を強化しなければ戦力が保てないし、何よりも改革を受け入れる体力がもたない。

 

強い体質を維持したまま省力化を図るならまだわかるが、真っ先に体力を削ぎ落とす手段を用いることを「体質改善」とは言わない。

 

それでは却って戦う力(生産性)を失ってしまう。

 

人員減はあくまでも ”省力化” のオプションの一つで、本当に生産性を謳うなら、人員構成をセンセーショナルに変えてしまうような改革は、やはり危険が伴うでしょう。

 

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計算ずくのリストラで労働環境は悪化し、最も大きな力になる「忠誠心を持った従業員」が去ってしまうと、一旦落ち目になった会社が再チャレンジするのは至難の業です。

 

生産性との因果関係があるロイヤリティ

ブラック企業という言葉が一般化したのは2000年代になってからのことだったと記憶しています。

 

逆に言えば、それまでは「3K」みたいな言い方はあれど、それは仕事の性質そのものを指していて、企業側からの積極的な圧迫や搾取とは一線を画していたように思われます。

 

また、90年代でも派遣で働く人はいましたが、そこから正社員や準職員になる門戸は今より開かれていたことは確実でした。

 

このため、私の友人にも、自分が望む道を目指す代わりに自由度の高い派遣を選ぶタイプは存在しました。

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自分が働いていくうえで、中長期の展望が見えていたり、少なくとも希望が持てる中では、労働環境の好悪に対する心理的クッションは保ちやすい。

 

ほかの会社に移るオプションも多様な場合、処遇においてもまた心理的重圧はコントロール可能で、交渉するのも辞めるのも自由となれば、一方的に気持ちが押しつぶされる状態の防止にもなる。

 

それゆえ、意欲を保って同じ会社で働き続け、結果として業務に熟練し、企業にとってもそういう「スタッフの成長」こそが生産性の核になっていたはずです。

 

「スタッフ」ってどっちの意味で使ってる?

高額なStuff(物)を入れて徹底的なIT化を図り、その分Staff(人)は減らす、または非正規雇用者にするというのは、一見コストカットに成功したように見えます。

 

Stuffのほうは取得価額が大きいですが、あとのキャッシュアウトはメンテナンスぐらいで、減価償却が終わってしまえば処分コストぐらいで済む。

 

一方、同じ「スタッフ」でもStaffのほうは、存在する限り毎月の給与のキャッシュアウトに加え、賞与だの退職金だのを支払ううえに、不定期/不定形に様々な問題を起こす。

 

だから優秀なStuffを入れたのと引き換えに面倒なStaffの首を切って、あとは無人にする。

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どうしても人員が必要なら、比較的安価な労働力である非正規労働者をあてがえば、複雑な仕事はStuffに、単純作業はStaffにさせて、これで生産性は上がる……

 

ならいいけどね。

 

そう理想どおりに進まないのが、ほとんどの企業の実態ではないかと思います。

 

「いや、ウチはうまくいっている!」

という声があると思うけれど、じゃあ現場の中に理想的な(少なくとも「良好な」)人間関係まで築けているかといえば、それは怪しい。

 

そこに関しては目を背けて耳を塞いでいるか、現場が声を出せないように押さえつけているということが非常に多い。

 

『はたらき者の死神』は、まさにそういった組織の闇につけこんで ”改革” をエサにあなたの会社を養分にする。

 

最後には枯死させられても、それはすべて『自己責任』扱いにされてしまうので十分な注意が必要です。

(続く)