漫画『デスノート』の主人公・夜神月は宿敵のLが居なくなって以降、いわば ”抑えが利かなくなったように” 狂気の様相を呈していきます。
そして終盤はかなりキモい奴に成り下がる。
映画版だとそんな ”ライトの狂気” が気持ち悪く描かれた印象を受けなかったため物足りなかったのですが、ドラマ版ではその点がクリアされていて、しっかりと気持ち悪い作りになっています。
漫画が苦手という方は、ドラマで見ると原作に近い雰囲気が味わえると思います。
往生際の悪い官僚
特に最終盤、ライトはこれ以上ないくらい醜い姿を露呈します。
Lの後継者・ニアの策略に完全に裏をかかれ、ニア側のメンバーだけでなく、味方である日本捜査本部メンバーの面前で、ライトが仕掛けた作戦を暴かれる。
大量殺人犯であるキラとしての行いのすべてが、欺き続けてきた味方の眼前にぶちまかれたわけですね。
このときにライトが見せる往生際の悪さが、とても官僚的だなと思いながら読んだ記憶があります。
国会で鋭い指摘を受けた政府答弁へ平行移動できそう。
追及を受ける夜神月
ここでのライトは、どんなに言い訳しても苦しい状況です。
しかも、その言い訳の一つ一つを否定してくるニアが証拠を挙げている以上、覆すにはさらなる証拠が必須だがそれを持ち合わせていない。
絶対の自信が成せる技なのか、反攻に対する「二の矢」を持たずに目下最大の敵に挑んだエリートは、醜く崩れていきます。
まともに言い返せなくなったライトはついに、「ニアさえ殺せば他の全員を言いくるめられる」と意味不明な活路を見出す。
どう見てもダメな方法を「これならイケる!」と思い込む官僚
抜群の画力とスピーディーな展開が織りなす迫力に押され、ここで思わず納得してしまった読者も居ただろうけれど、「ニアさえ殺せば」はどう考えても無理筋。
『こち亀』両さんと、中川か本田か忘れましたがこんなやり取りがありました。
悪事がバレて完全に巻き返しも不可能と、誰の目にも明らかな状況。
「先輩、もう無理ですよ。諦めてください」
「うるさい!ごまかせる限界までごまかす」
すでに両さんの悪あがきには何の意味も無くなっており、この直後にすべてを失うことはわかり切っている。が、己の賭けた目を変えることができず、「今までうまくいってきた過去のやり口」に固執し、無意味に繰り返す。
諦めていないように見える行動ながらも、意識の何処かで ”詰み” を実感していることを、見ている側に示している。
そう、「本人だけは認めない」が、その一方で「他人は皆ソイツの醜態を見せつけられている」という状態です。
他に似たケースとして、兵庫県知事の会見や議会での有りようもまた、いかにも官僚出身者らしく、このデスノート最終盤のライトを具現化したような状況に見えて仕方がない。
頭が良いのにバカなことに定評のある・・
「ニアさえ殺せば」という、拠り所にならないものを支えに、自身が脳内に作り出したファンタジーに浸る。
窮地に陥ったときの官僚的思考経路っぽいと思うのですが、当の官僚自身は案外成功を確信していたりする。
たぶん、最後まで「失敗」だったとは考えないと思う。
前にも書きましたが「厚労省の職員は、COCOAを失敗だったとは考えていないのではないか?」が夜神月にも当てはまる。
それくらい、官僚が主張する「予算が必要だ」は根深いと思っています。
議員に「予算は絶対要ります。もっと要ります。削れません。とにかく【財源】は今以上に必要です」といくら囁いて操っても法律で罰することができない以上、官僚は逃げ切りに成功する。
政治とか政策とか国家事業とかの切り口で素人が斬り込むことは技量の点でできないし、選挙をやっても官僚そのものには響かない。
星新一さんの作品に『人民は弱し官吏は強し』という長編がありますが、あのタイトルを思い出してしまう・・