『新撰組遺聞』について、前回はゲームの『龍が如く』とからめて、どちらかといえばゲームがメインのような印象の記事を書きましたが、今回は書籍の話をメインにまとめたいと思います。
一般人に向けた ”新選組本” の先駆け
『新撰組遺聞』は、作者の子母澤寛さんが昭和3年に実施した、「新選組と関わった人たちへのインタビュー」を元にした著述です。
決して ”物語” では無いが、常に物語的時間が流れているという不思議な作品です。
この設定には、現代では考えられないプレミアム感があります。
インタビューの相手が幕末経験者なんて、今ではありえないですから。
幕末に新選組隊士と直に接した人の体験談ですから、多少の記憶違いは有るにしても、記録を見たにすぎない人間が頭で作り出しただけのストーリーとは違う、独特の生々しさがあります。
そして、私がこの本の中で特に注目したのは、八木為三郎という70過ぎの男性が語った内容です。
為三郎さんの日常
「八木源之丞」という名前をご存じの方は多いでしょう。
新選組関係の小説を読んでいると、結成早々を描いたシーンでよく登場します。
といっても源之丞さん御本人の振る舞いやセリフが記されることはまず無くて、屋敷名として有名な名だと思います。

ちなみに『新撰組遺聞』では、この源之丞さんの様子がかなり細かく記述されていて、芹沢鴨を問い詰めたり、逆に芹沢から強要されても頑として自分を曲げないしたたかさがあるかと思えば、隊士に対して寛容に接するなど、なかなかの器量人であったことがうかがえます。
奇跡の【八木邸】
幕末の活動家・清河八郎の策謀で幕府が徴募した浪士組234名。
彼らが京都へ到着して複数の家へ分宿した際、近藤勇一派の8人と芹沢鴨一派の5人が割り当てられたのが、「八木源之丞宅」でした。
この「たまたま同宿になった」近藤と芹沢の仲間たちが新選組の中核になるという劇的な展開になるのはよく知られた話です。

”京都鎮護” を掲げて浪士を集めた清河八郎がにわかに手のひらを返し、京に着いてから僅か二十日後には「さあ、江戸へ行こう」と促す。
食い詰め浪人がほとんどだった浪士たちは、変節と知りながらもただ従うしかない中、近藤と芹沢だけはそれを良しとしなかった・・・と。
司馬さんの『燃えよ剣』ではこの時の芹沢はいかにも英雄的な風格を見せ、清川のことなどは小僧扱いしています。
山南敬助が「清川先生」とやたらに敬っているのと真逆の態度で、これには芹沢嫌いの土方が、この一事に関してだけは芹沢を高く評価しているのが印象深い。
恩をかけた相手が大出世した
ということで大多数の浪士が清川に翻弄されたあげく京を去りましたが、八木家を宿とした近藤一派だけは別で、同宿の芹沢は会津藩に伝手がある。
藩主の松平容保は京都守護職を務めており、もともと会津藩には浪士たちを預かるといった話も存在した。
近藤と土方は会津藩との橋渡し役として芹沢を担ぎ立てる方策を実行し、それに成功したがゆえに『八木源之丞宅の同宿メンバー』が、そのまま新選組幹部になった、ということのようです。

そして、『新撰組遺聞』で子母澤寛さんがインタビューした相手は、その源之丞さんの息子であり、当時はまだ寺子屋に通う年齢の少年だった八木為三郎さんです。
『黒子のバスケ』どころじゃない ”キセキの世代"
為三郎さんの話によると八木家に居た近藤派の8人は
近藤勇、土方歳三、山南敬助、沖田総司、永倉新八、原田左之助、井上源三郎、藤堂平助
ということです。明治になってからの永倉新八の話とも一致しています。
八木家8人衆の中にいない斎藤一は、南部亀二郎という人の屋敷に泊まっていたそうですが、実際には八木家に入り浸っており、為三郎さんの記憶にもあるとのことです。
他に芹沢派のひとりで、局長三人体制だった頃の一角を担った新見錦も、斎藤と同様に南部さんの家にいて、しょっちゅう八木家に来ていたようなのですが、新見に関しては、為三郎さんは「見たこともない」と言っているのが興味深い。

じつは新見錦に関しては、とても不思議に感じていることがあるのですが、それはまたの機会に書くとして、どうですかこのメンバー。
実に錚々たる顔ぶれではないですか。
まだこの頃は平隊士も無く、純度百パーセントのオールスター集団です。
当時としてはただの田舎剣客たちにすぎませんが、後世の我々にとっては珠玉のメンツと言ってもいいでしょう。
八木邸において彼らに割り当てられたのは母屋ではなく、そこから小半丁(約30メートル)ほどの場所にある離れ座敷です。
しかし、そんな場所で大人しくしている連中ではなく、当然のように母屋にも居座っており、後に人数が増えて隣家の前川家が屯所化していっても、八木家との縁は全く切れなかったといいます。
よほど気に入りのアジトだったのでしょう。
八木家は女中や下男なども住み込んでいるような広い屋敷ですが、幾人もの家人に混ざって土方や沖田や藤堂などが普通に歩き回っていたと考えると、キャストの濃さに目眩がしそうです。
別の世界観を当てはめたくなる誘惑
この頃の八木源之丞宅の状況に『龍が如く維新』の世界観を当てはめれば、自宅に桐生さんと真島さん、峰に冴島、それから柏木さんに馬場ちゃんといったメンバーが暮らしている状況です。
もしも【転生したら為三郎だった件】というラノベでも出たら、ちょっと読んでみたい・・
ちなみに岡田斗司夫さんが言うには、およそ想像ができる異世界モノはほとんどすでに作品化されているそうです。(この動画見ながら何度も笑ってしまった)
ということで試しに「異世界 為三郎」で検索したのですが小説も漫画もヒットしない。(いくらなんでもこの設定は無いか・・)
新選組隊士が異世界転生する話なら有るのですが、その隊士たちが家に寄宿していた経験を持つ少年に転生し、憧れの新選組幹部たちとの日常を堪能する話というのは見当たりません。
たしかにその設定ならアイテムやギミックは満載ですが、それをするくらいなら普通に時代小説を書くってことでしょうか・・









