格下の土方歳三に後れを取るなど考えられない。
まんまと切腹に追い込まれるなんて有り得なさそうな「新選組局長・新見錦」
20台半ばの頃に読んだ『燃えよ剣』で展開された不思議な事件についての勝手な考察を続けます。
激アツ描写で疑念を抱かせない劇的事象『新見錦の切腹』
言わずと知れた司馬遼太郎の傑作『燃えよ剣』作中のこのシーン。
新見が居る料亭へ、土方が沖田総司らを連れて乗り込みます。

総司たちの存在を伏せたまま土方ひとりが座敷に上がり、慇懃な物腰で「重大な決定のために3局長の合意が必要なのです」と告げる。
聞けば芹沢も合意したというし、何よりもせっかくの酒席の楽しみを邪魔されたことに迷惑げな新見は「分かった分かった、それなら私も承諾だ」と内容も聞かずに返事をする。
しかしその「重大な決定」とは不逞浪士・新見錦への処断だった・・
『龍が如く維新!』のあのシーンに重なる新見への強烈な圧力
新見自身が承諾した「新見錦切腹」を申し渡す土方の背後に、沖田が姿を見せる。
同時に左右の襖が開き、永倉と原田が現れる。
前方と左右から詰め寄った4人が、逃げ場を失った新見を囲んで切腹を迫るという流れです。
まるで舞台劇!(というか小説だし)
【訂正】
私の記憶違いで、『燃えよ剣』のこのシーンではさらに斎藤一も左右どちらかから出てきますので、新見を囲んだのは全部で5人でした。大変失礼いたしました。
余談ですが『龍が如く維新!』では、広間の奥に座す伊東甲子太郎に土方、沖田、永倉、斎藤の4人が刀を突きつけて、近藤殺害や京の町への放火といった非道に対する糾弾をするシーンがありますが、あれを想像すると少し近いかもしれません。
私の『龍が如く』の情報源、牛沢さんのゲーム実況でそのものズバリのサムネがありましたので張っておきましょう。
桐生さん、真島さん、峰、冴島に刀を突きつけられた浜崎は、生きた心地がしなかったことでしょう。
しかし牛沢さんでなくとも永倉が袖をちぎっている異様な着こなしにはツッコミを入れたくなる。
羽織と着物、両方の袖が同じ丈になるようにちぎったってことでしょ? 意外に丹念に作業してそうだな・・
実は芹沢には事後承諾(?)だったというオチ
話を元に戻しますが、『燃えよ剣』のこのシーンを読んでいると、多少の疑念はこの迫力あるスリリングな展開に吹き飛んでしまう。
しかし後でゆっくり考えると「そんな一方的に最高幹部が詰め腹を切らされるなんて・・」という想いが湧いてきて仕方がない。
「この件は芹沢も承諾した」ということが新見の心を折ったのかもしれませんが、あるいは土方が嘘を言っている可能性も否定できない。
実際、「芹沢は新見の切腹に合意した」との土方の主張は希望的観測に過ぎない、と『燃えよ剣』では書かれています。

実情を言えば、土方が料亭で新見を追い詰めているこの瞬間に、屯所では近藤が芹沢に議論を仕掛けてこの話を飲ませるべく鋭意説得中というだけの話で、事を終えて屯所に戻った土方の報告を聞き、芹沢が激怒するという展開です。
とにかくここで新見錦という ”二の丸” が落とされ、後は本丸である芹沢を陥落させるだけになった、と、派閥争いはいよいよ最終局面に入ったことがわかります。
知り尽くしたうえでデフォルメする司馬文学は、フィクションとして楽しもう
ということで、最初にこの ”新見錦切腹” のことを知ったのが土方を描く『燃えよ剣』だったため、この事件は土方が悲願とした ”近藤勇が率いる新選組” を実現するためのミッションのひとつのように印象が固定されました。
この作品を楽しむためには、やはりこれが一番かなと思いますし、そう仕向ける司馬さんの筆力を感じざるを得ない。
『派閥抗争』というスパイスを利かせ、読者向けの見せ場をふんだんに設けながらトントン拍子に進んで行くわけですが、私はあえてこの「司馬的バイアス」に異を唱えたい。
当時の新選組には、言うほど派閥感は無かったのではないかと・・
いや、土方はそう思っていたかもしれないけれど、それ以外の人たちはあまりこだわっていなかったようにも思われます。
子母澤寛さんの『新選組遺聞』を読むと、尚更そう感じます。
実は司馬さんの描き方もそのとおりで、土方だけが自己の組織律にこだわって周囲を巻き込んでいるので、司馬さんもそこを分かっていて強調デフォルメをしている気がします(と考えるとより一層楽しめる)
では「じつは派閥抗争的色合いは、それほど存在しなかった」という考察に入りましょう。
私が考える理由は2つあります。
<続く>









