食風景の気に入ったシーンの簡単な感想を書いていきます。
井上靖、自伝的小説3部作のラスト、旧制中学卒業後の数ヶ月を描いた作品です。
以前のブログで、前作「夏草冬濤」の朝食シーンのことを書きましたが、その3年後の話です。
下宿で初めて食べる朝ごはん
志望校である第四高等学校の下見のため金沢へやってきた洪作少年。
彼は、中学に引き続いて高校でも柔道をしようと決意しています。
杉戸という1年生の柔道部員が下宿している家に居候することになった洪作。
前夜は、杉戸の友人に食堂でライスカレーとカツレツを御馳走になっているので、翌朝の朝食が、この家で食べる初めての食事です。
「味噌汁を二杯飲み、卵を二個割り、ご飯を三杯食べた。 卵は卓の上に二個出ていたので二個割ったのであるが、一個は杉戸の分であることが後でわかった」
と、その様子が描写されています。
なぜわざわざこの一文があったのかと思うほどの平凡な記述です。
この作品にはこれが実に多い(リアリティがあり私は大好きです)。
「卵か海苔か?」それが朝食のバリエーション
この朝食シーンの少し後に、先輩の杉戸君が目を覚ますくだりがあります。
下宿のおばさんに 「今日は卵ですか、海苔ですか」と聞いている。
このセリフから透けて見えるのが、要は卵か海苔かの違いだけで、朝食は大体いつもこんなものだということです。
朝9時に朝食を食べた洪作は、杉戸が起き出してくる11時すぎには、再び空腹になり始めるころだったでしょう。
朝食用の卵を洪作に奪われていた杉戸君は、昼食用のおかずを洪作と共に食べたのでしょう。
昼ごはんのメニューが出てこないのが残念です。
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朝から3杯のメシを平らげる洪作少年を見て、下宿のおばさんは炊くごはんの量の計算に余念が無かったかもしれません。
なにせ昨夜急にやって来たばかりだから、今朝炊くごはんも微調整が必要だったはずです。
「2、3日だけ滞在します」と最初に言ったにもかかわらず、万事ずぼらな洪作は、数週間をここで過ごしたので、下宿の家では1俵くらい買い足したのではなかろうかと、妄想はひたすら膨らみます。