【感情会計】善意と悪意のバランスシート

善と悪の差し引き感情=幸福度

水戸黄門史上、最も空気の読めなかった男とは?

歴代水戸黄門の中で、今も心に残るスペクタクルなシリーズがあります。

 

私と同じことを感じている方は多いようで、グーグルで「水戸黄門 げんりゅう」といい加減に検索したのに一発でトップ表示されました。

 

第5部です。

1974年放映の全26回。

 

さすがにこの年だと、リアルタイムでは見ていません。

夕方にやっていた再放送で見ていました。

 

ストーリーはというと・・

 

とある藩の姫様からの直訴を受け、その国を牛耳る城代家老の悪を正すため、九州まで旅をしていく話です。

 

姫が水戸の老公の所へ駆け込んだことを知った城代家老は、姫と老公を亡き者にしようと画策します。

 

そこで送り込まれたのが最強の刺客「鉄羅漢玄竜」

「げんりゅう」という呼び名しか知らなかったのですが、正式にはこんな名前でした。

ではこの玄竜、どれくらい強いか?

 

助さん格さんといえば、敵が何人いようが脇差1本で全員を相手にできるという、信じられないレベルの達人です。

 

そんな二人と、玄竜はこのシリーズで何度も戦っていますが、1対1では勝負がつかない。

 

それだけでも充分すごいのですが、加えて玄竜は忍術も使えるので、ゲリラ戦では助格二人がそろっていても手が出せず、弥七の忍術だけを頼りに襲撃をかわすシーンなども出てきます。

 

また、弥七との一騎打ちに持ち込んでも勝敗がつかない。

 

チートキャラといえる「助格弥七」が、それぞれの得意分野を駆使しても始末のつかない敵・玄竜。

 

『歴代水戸黄門に登場した最強の敵』との評価はダテではありません。

 

いくら強敵との息詰まる争闘があるとはいえど、このドラマはあくまでもお馴染みの『水戸黄門』です。

 

物語の展開としては毎回、訪れた地域で起きている問題に介入しては世直しを続けるという、エピソード一話完結型が続きます。

 

しかし、玄竜はずっと老公たちをつけ狙ってくるという設定でもあるので、並行して罠や陰謀、そして戦いの描写が差し込まれます。

 

全26話中、玄竜の登場回数は13回。結構頻繁であるだけでなく、組織的に仕掛けてくるし、とにかくコイツは強すぎる。

 

一行はうかうかできません。

 

ということは、「ご隠居が助さん格さんと揉めて、ふてくされたご隠居が八兵衛を連れて別行動を取り、温泉に入ってるスキに印籠を盗まれてニセ黄門が現われる」という定番のコメディー展開は、このシリーズにはありません。

 

中期以降の作品に慣れたファンが大好きな「水戸黄門あるある」がこれほど通用しないシリーズは他にないと思うのですが、最終回の1つ前のエピソードもそのひとつです。

 

一行は玄竜の罠により牢に閉じ込められ、檻の前には爆薬が置かれ、そこから伸びた導火線に火がつけられます。

 

「シューッ」と音を立て、小さな火花を散らしながら導火線をたどり、火は刻一刻と爆薬に向かって進んでいく。

 

このとき、閉じ込められた一行の中に弥七は居ません。

 

ということは、いよいよという時、赤い風車のドアップがカットインされ、見事導火線に突き刺さって火の進行を止めるというのも、定番の展開ですね。

(ちなみに初期作品なので飛猿や鬼若などはいません。弥七だけが頼りです)

 

しかし、玄竜はそれも許さない。

 

玄竜は、老公たちとの幾度もの戦いの結果、遊撃的役割を果たす弥七のことも研究しています。

 

たとえ一行をまとめて捕らえたとしても、その中に弥七がいないかぎり、必ず駆けつけてきて計画を覆してしまう。

何よりもまず彼の存在を確認し、同行していないならば確実に足止めして近寄らせないことこそ、水戸老公抹殺の最大のポイントである、と。

 

偵察の結果、罠のある場所に向かった一行の中に、弥七の姿はない。

玄竜は、一行の始末を部下に任せて弥七の元へ向かいます。

 

そして、黄門様一行に危機が迫ったとき、弥七は遠く離れた林の中で、玄竜と一騎打ちの真剣勝負をすることになります。

 

互いに忍者として持てる秘術を尽くし、戦いは全くの互角。

 

飛び違い、駆け違い、火花を散らして激しくやり合いながら、玄竜は徐々に林を抜けていきます。

そして、最後に大きく跳躍した先は、すぐ横を流れる大きな川。

 

予想外の行動に驚き、戦いの構えを解いた弥七が川辺に走り出てみると、水に飛び込んだはずの玄竜は船に乗っています。

 

あらかじめ用意していた船が、部下の手によって既に漕き出しており、川岸に立つ弥七からは、もはや届かぬ位置まで移動しています。

 

立ち尽くす弥七に、高笑いと悪罵を浴びせる玄竜。

すべて、最初からの筋書きどおりです。

 

戦いながら刻限を計り、駆けつける時間を奪ったところで逃げに転じたわけです。

 

今からではもう間に合うまい。いくらお前でもな。

 

作戦は、見事なまでに決まりました。

 

悔しそうに玄竜をにらみ、唇をかみしめる弥七。

しかし彼はすぐに頭を切り替えて、老公の下へと全力で急行します。

 

しかしそんな弥七の必死の努力もむなしく、駆け出してすぐ、彼方の前方に爆煙が噴き上がるのが見えます。

 

そして耳をつんざく轟音・・。

全速力で駆けていた足も、力なく止まってしまいます。

 

呆然と彼方を見やり、立ち尽くす弥七・・

 

ここでこの回は終わるのです。

 

もはやこれを、我々が慣れ親しんだ「水戸黄門」と呼んでいいものか?

玄竜よ、お前は空気読まなすぎだ・・

 

とはいってもこれはまだ第5部。

まだまだ「定番の展開」なんて言えなかった頃でしょうから、まあ仕方ないか・・

 

しかしこれは、かれこれ30年以上前に一度見ただけの放映。

 

にもかかわらず、いまだに鮮やかに記憶に残るほど、とにかく秀逸なシリーズでした。本当に素晴らしい! 制作者の方々、ありがとうございました。