まるで息を吐くように至言を連発する中谷彰宏さんのことを書かなければなりません。
私が20代最初の頃、中谷さんはよくテレビ出演をされていて、お姿を拝見する機会も多かったのですが、その後は露出も減り、最近はすっかり見なくなりました。
博報堂を辞めなければならなくなった理由が「テレビ出演がばれたから」ということだったようですが、その時の中谷さんは既にかなりのテレビ露出をしていたので“今さら感”が強かったといいます。
大手広告代理店の社員が、いかにテレビを見ていないかを嘆息するかのように書かれていたことを思いだします。
中谷さんはあまりにも著作が多すぎて、かつて読んだ本の中の至言を思いだせたとしても、どの本でそう言われていたのかを探すことはほぼ無理です。
そこで、文字ではなく音声で聞いた言葉を採りあげることにしました。
ちなみに、私がここまで「至言に魅力あり!!」シリーズで挙げた藤原和弘さん、土井英司さんの言葉は、いずれもコンサルタントの神田昌典さんが提供する『ダントツ企業実戦オーディオセミナー』でのインタビューから抜粋したものです。
そこで、中谷彰宏さんのことも、同教材から引っ張り出して語ってみたいと思います。
土井英司さんについて書いた記事では、土井理論による“ブランドの定義”から話を展開しましたが、実は中谷さんも神田さんとの対話の中で、中谷流の“ブランドの定義”を語っておられましたので、せっかくですから並べてみましょう。
<土井理論>
ブランドは「強み」と「らしさ」を掛けたもの
<中谷流>
ブランドは「信用」と「評判」
ふたりの知的プロフェッショナルが、時と場所は違えど、同じインタビュアーに向け、持論を展開しています。
聞き手の神田昌典さんもまた、知的プロフェッショナルとして有名な方ですから、いわば3人の有識者がひとつの言葉の定義を巡って、互いに思うところを開陳する面白い展開です。
私が土井さんと中谷さんのブランド論を比較する中で、特に面白いと思ったのが、持論の伝え方のタイプが全く違うものだったことです。
具体的に言えば、インタビュアー(神田さん)の使い方に大きな差がありました。
その前に、おふたりがそれぞれ述べた二つの単語について、少しだけ私の感じ方を話しておきましょう。
それぞれ使っている言葉は違うけれど、ニュアンスは一緒ですよね。
土井さんは「強み」と表現したけれど、強みというのは専門性の深さでもあります。
それがわかるからこそ、私たちは製品やサービスの品質や、その作り手を信用する。
中谷さんは「信用」について、こんな感じで述べています。
例えばルイ・ヴィトンの製品は、壊れたら必ずメンテナンスすると謳っている。
もちろん壊れにくいのだけれど、もしそうなったら必ずメンテするので安心して使えますという姿勢を貫いているのでお客さんは信用する
ルイ・ヴィトンがこれを堂々と言えるのは、まず第一に製品に自信があり、万が一壊れるようなことが起きたとしても、その際のサービス対応にも自信がある。
製品自体が「強み」であり、サービス対応の品質もまた「強み」でなかったら、こんなことを公言できないはずです。
土井さんが語る「強み」と、中谷さんが語る「信用」はセイムセイムな関係と言って差し支えなさそうです。
次に「らしさ」と「評判」の比較です。
土井さんは「その人らしさ」とは、社会とのスタンスをはっきりさせて「あなたの敵は誰なのか?」という読者からの問いに対する回答のことだと言います。
これを明確にしておくことが、まず必要なことだそうです。
それによって、共感する人が集まりやすい状況を作ることが大事らしい。
中谷さんは「この人、信頼できるな」と人から思ってもらうことができると、人は次に、それを誰かに話したくなるので、それが評判になると言います。
「この人スゴイな」と感じた気持ちを共感してくれる相手を求めて、仲間を作ろうとする“語り部”によって「評判」が築かれていくことを指しています。
土井さんの「らしさ」理論と同じように、共感する人が集まりやすい状況を作るのが「評判」ということで、プロセスに若干の違いがあるかもしれませんが、結局は同じ方向へ進み、ブランドが確立していくことに変わりはない。
しかも、その瞬間だけ目を引くキャッチーな事柄でなく、十分な時間経過が介在している理論だという点でも、おふたりが語るブランドの定義が一致しています。
やはり、突き詰めた結果到達する真理はひとつのものに帰結するということでしょうか?
実に興味深いです。
さて、先ほど書きかけた「おふたりのインタビュー(神田さん)の使い方に差がある」ということについて触れられぬまま長々と書いてしまったので、これについては次回記事に譲りたいと思います。