【感情会計】善意と悪意のバランスシート

善と悪の差し引き感情=幸福度

『大藪春彦「蘇る金狼」の味①ホットドッグは飲み物です』

「街中で張り込む刑事が口にする食事といえば、サンドイッチ」

そんな固定概念を覆す大藪作品。

 

けた外れな食事シーンを多数擁する”蘇る金狼”には、20代の頃に出会いました。

本を手放してからも、ずっと色褪せぬ記憶が、とうとう私に記事を書かせるに至りました。

 


蘇える金狼 野望篇 (角川文庫 緑 362-2)

 

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【孤独にグルメ】朝倉哲也

この物語の主人公・朝倉哲也は刑事ではありません。

むしろ、極悪人です。

 

東和油脂という会社の経理部に勤める朝倉は、上司の金子次長が誰かに脅かされ、昼休みに呼び出されたことを知る。

 

次長の弱みを握って脅したい朝倉にとって、他の脅迫者は邪魔になる。

誰が、どんな手段で脅迫するのかを確かめねばならない。

 

「腹が……減った……。……店を探そう!」

朝倉は金子次長を尾行して、待ち合わせのデパートへ向かいます。

近くの広場に身をひそめ、謎の相手を見定めようと待ち構える。

しかし、昼食を食べずに会社を飛び出している朝倉は空腹です。

そこで、待っている間に食料を調達しようとします。

 

素早くその場で食べられる食事と言えば、やはりサンドイッチ。

朝倉は近くの売店で注文する。 

 

この時選択したのはホットドッグを3個と牛乳を2本というラインナップ。

 

簡単に済ませる内容とは言えないボリュームですね。

 

 

張り込み中は目立たぬよう振る舞うのがセオリーですが、ここにいくつか疑問が生じます。

 

 あまりのことに時代背景まで調べてしまった

私がこの小説を初めて読んだとき、真っ先に思ったのは

「そんなにたくさん、どうやって手に持ったのか?」

という点です。

 

朝倉が受け取った2本の牛乳は「瓶」だったか? 「紙パック」だったか?

この小説が連載されたのは昭和37〜39年の頃です。

牛乳と言えば、瓶入りが当たり前だった時代です。

 

念のため、日本乳業協会のサイトで紙パック入り牛乳のことを調べてみました。

 

紙パックが日本全国に急速に広まったのは、昭和39年の東京オリンピックや、45年の万博が主なきっかけと書かれています。

 

「主なきっかけ」が6年間にわたって2度もあるということから、瓶から紙パックへの変遷は、ゆっくりした速度で行われたことが推察されます。

 

だいたい、そんなに短期間で瓶が一掃されていないことは、私自身が経験的に知っている。

なにせ、昭和50年代も給食では牛乳瓶が当たり前に使われていたから。

 

このとき朝倉が買った牛乳も、武骨な重たい瓶だった可能性が高い。

 

それを2本。

 

大柄な朝倉なら、手もそれなりの大きさがあると思われます。

おそらく片手で持てるとはいえ、ホットドッグと一緒に渡される。

ちょっと危なっかしいですね。

 

牛乳瓶を入れる袋は渡されたか?

ちなみに、スーパーマーケットの歴史についても調べましたが、この販売形態が日本で一般化したのは1960年代(昭和35〜45年)とのこと。

 

蘇る金狼の連載時には、スーパーマーケットは存在しているはず。

とはいえ、レジ袋みたいなお手軽グッズがあったかどうかは疑わしい

 

『こち亀』初期の両さんがパチンコで勝って、大量の景品をもらうシーンがありましたが、そのときは大きな紙袋を二つぐらい抱えて歩いていた。

 

こち亀の時代でもそんな状況ですから、さらに昔の朝倉くんの頃は、まだまだ紙袋が主流だったはず

 

2本の牛乳瓶は、紙袋に入れて持たせてくれたんじゃないかと思う。

(破れて落下しそうで怖いですが)

 

平坦な紙皿いっぱいに乗せられた料理 

そして、ホットドッグ3本もまた難物です。

 

「紙皿に乗せられた」という描写があるので、さすがに3本をわしづかみで受け取ったわけではないようです。

 

 

片手の紙皿に3本のホットドッグ、もう片方に2本の牛乳瓶。

連れの分をまとめ買いしたというわけでもなく、一人でベンチに腰掛ける男。

 

「張り込みは目立たぬように」なんていうセオリーは、朝倉哲也の食欲の前には意味を持たない。

 

メチャクチャ目立っとるがな!

 

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気づいた奴は亡き者に……。それが朝倉の【孤独の流儀】

食料をガッチリ買いまくってる朝倉の知らぬことだったが、実はその時、脅迫者はすぐそばのベンチに座っていた。

 

その男はすぐに立ち上がって歩き出したので、朝倉は大急ぎで完食して後を追います。

 

ホットドッグ3本を、おそらくは30秒程度の時間で平らげ、牛乳瓶をあっという間に2本傾けて飲み干して去っていく男。

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購入にかかった時間より、食べるのに使った時間のほうがはるかに早かったのは疑いようもありません。

 

私なら、その凄まじい飲みっぷり 食べっぷりに目を奪われることは間違いない。

そして、茫然と見守っているうちに、朝倉と目が合ってしまうことでしょう。

 

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顔を覚えられたと認識した朝倉に、命を狙われる可能性が高い。

 

大藪春彦作品に出てくるようなバイオレンス犯罪者を目撃してしまったら、私などはすぐに殺されるでしょうね。

 

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