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『大藪春彦「蘇る金狼」の味』

「街中での張り込み中、口にする食事といえば、サンドイッチ」

そんな固定概念を覆す大藪作品。

 

 ホットドッグは飲み物です


蘇える金狼 野望篇 (角川文庫 緑 362-2)

 

この物語の主人公・朝倉哲也は刑事ではありません。

むしろ、極悪人です。

 

今回の私の記事も「気に入った食事シーンを書く」というか、ただのツッコミかもしれません。

 

自分の上司である経理部の次長が、誰かに脅かされ、昼休みに呼び出された。

 

朝倉はその後を尾行して、待ち合わせのデパートへ向かいます。

ペットショップ売り場近くの広場で、謎の相手を待つ間に昼食を買います。

 

サンドイッチといえば言えるのですが、ホットドッグを3個と牛乳を2本というラインナップです。

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あけびさんによる写真ACからの写真

 

張り込みというと、目立たぬようにするのがセオリーですが、このあたりにいくつか疑問が生じます。

 

私がこの小説を初めて読んだのは20代後半の頃ですが、真っ先に思ったのは「どうやって手に持ったのか?」という点です。

 

 あまりのことに時代背景まで調べてしまった

この小説が連載されたのは昭和37〜39年の頃です。

牛乳と言えば、瓶入りが当たり前だった時代です。

 

念のため、日本乳業協会のサイトで紙パック入り牛乳のことを調べてみましたが、日本全国に急速に広まったのは昭和39年の東京オリンピックや、45年の万博が主なきっかけと書かれています。

 

瓶から紙パックへの変遷は、ゆっくりとした速度で行われたことが判ります。

だいたい、そんなに短期間で瓶が一掃されていないことは、私自身が経験的に知っています。

昭和50年代も給食で当たり前のように使われていましたから。

 

ということは、このとき朝倉が買った牛乳は、銭湯などで見るあの厚みのある重たい瓶だった可能性が高い。

 

それを2本。大柄な朝倉なら片手で持てたでしょう。

 

ちなみに、スーパーマーケットの歴史についても調べましたが、日本で一般化したのは1960年代(昭和35〜45年)とのこと。

 

当然、スーパーのレジ袋みたいなお手軽グッズは無かったでしょう。あってもせいぜい紙袋。

2本の牛乳瓶は、紙袋に入れて持たせてくれたのでしょうか?(破れて割れそうで怖いですが)

 

ホットドッグ3本もまた難物です。

 

「紙皿に乗せられた」という描写があるので、さすがに3本を手づかみで受け取ったわけではないようですが、片手の紙皿に3本のホットドッグ、もう片方に2本の牛乳瓶を持ち、一人でベンチに腰掛ける男。

 

実は脅迫者はその時、朝倉の前列のベンチという、とても近いところに座っていました。

すぐに立ち上がって歩き出したので、朝倉は大急ぎで、買った食料を残らず食べきって後を追います。

 

ホットドッグ3本を、おそらくは30秒程度の時間で平らげ、牛乳瓶をあっという間に2本傾けて飲み干して去っていく男。

 

購入にかかった時間より、食べるのに使った時間のほうがはるかに早かったのは疑いようもありません。

 

あまりの異様さに、印象に残らざるを得ない。私ならそうなります。

思わず見続けて目が合い、「顔を覚えられた。始末せねば」と思われる可能性、大です。

大藪春彦作品に出てくるようなバイオレンス犯罪者を目撃してしまったら、私などはすぐに殺されるでしょうね。