小説を読んでいて、本筋と関係ないことが気になって、そこに引っかかってしまうことはないでしょうか?
台湾出身で日本に帰化した小説家、邱永漢さんは「いま、主人公のポケットには、一体いくらのお金が入っているのだろう?」ということが常に気になって仕方なかったようです。
何だかわかります、その気持ち。
無尽蔵にお金が出てくる感じで進む物語には、どうもリアリティーが感じられない。
それを逆手に取ったような設定の「富豪刑事」みたいな作品は、最初から非現実な世界観を楽しめるのですが。。。
食欲と金欲が底流にある物語
お金にまつわるリアリティーがある作品の説得力が高いのと同様、食に関するリアリティーもまた、作品に華を添える。
主人公が一度も食物を口にしない物語よりも、ときに食事シーンが描かれるほうが、より日常感は強くなる。
また、登場人物の食べ物の好みがキャラ設定されていたりするほうが、作品へのコミットは圧倒的にし易くなると思います。
しかし、のべつまくなしに食べ続けるのも現実的じゃないので、食事シーンを描くときには、時間の経過とワンセットにしてほしい。
毎日『食事シーン』が描かれるハードボイルド作品
私のブログの中で、特にアクセスが多い記事は、「蘇る金狼」の食事シーンについて書いたものです。
最初は純粋に「心に残った食事シーン」のことを書いたつもりです。
しかしこの作品、とうてい1回では書ききれないほど強烈なインパクトのシーンがわんさか登場します。
さすがは大藪春彦作品。。。
大藪作品の中でも特に名高い『蘇る金狼』
『蘇る金狼』の主人公は、朝倉哲也という29歳の青年です。
東和油脂という一流企業の経理部で働く、地味で目立たない男です。
しかし彼には、まじめなサラリーマンの仮面の裏に、別の顔があった・・・。
その”裏の顔”を描いたのがハードボイルド作品である『蘇る金狼』です。
大藪作品の中でも『野獣死すべし』『汚れた英雄』と並び、名高い1作であることは間違いありません。
「食事シーン」にこだわる読み手の発想
しかし私は、「食事シーン」に引っかかってしまう性質です。
小説にせよ漫画にせよドラマにせよ、とにかく食に関するシーンに強く印象を受けてしまう性格です。
その結果、とりわけ食事シーンが目立った『蘇る金狼』の文庫本に、付箋紙で目印を付けてみたところ、こんな結果になりました。
ハードボイルド小説『蘇る金狼』
ハードボイルド小説が擁する「食事シーン」
いや・・食いすぎだろ朝倉!
全21日間の行動のうち、19日の”食事”を描く「ハードボイルド作品」
この前編「野望篇」では、11月9日(水曜日)から11月29日(火曜日)までが描かれているのですが、朝倉が食べるシーンが存在しない日は11月15日と16日の二日間しかありません。
こんなにネタだらけの作品は珍しい。
たった一度記事を書いただけでは、氷山の一角を舐めた程度にすぎません。
結局、その後も数回ネタにし続けたのですが、なかでも際立って印象強かった「バター摂取の異常な多さ」が、書いていて面白かった。
2回目以降の記事では、明らかに「いじりに行ってる」内容なのですが、なぜかそのほうが読まれているようです。
共感する方が多いのでしょうか。
私の手元には、上でお見せした写真のとおり、付箋だらけの文庫本があります。
久しぶりに、いじってみたくなりました。
近いうち、また書き始めると思います。