さて、銀行の現金輸送人を襲い、まんまと1800万円を手に入れた朝倉哲也
しかし残念ながらそのナンバーは全て控えられていて、使うことができない
仕方なく彼は相変わらずの貧乏生活を余儀なくされています
月の手取りと比較してみよう
ところで、この物語が昭和41年を舞台にした作品だとして、このとき朝倉が奪った1800万円という金額は、現在に直すとどの程度のインパクトがあるのでしょうか。
物価指数などを使えば目安は得られるのでしょうが、そういうデータで示しても、どうもあまりピンとこない。
もっと身近な「月の手取り金額」に例えてみましょう。
しばらく前に、蘇る金狼の主人公である朝倉くんの懐事情について考察した記事があります。
【その記事はこちらです⇩⇩】
この記事の中では、彼が家にある古本を売り払って2500円の現金を手に入れ、そのうちの500円でボロニアソーセージを半キロと卵を5個買ったシーンについて触れました。
作中では、朝倉の手取りは月25,000円と紹介されている。
つまり、古本売却で月の手取の10分の1を手に入れ、そのさらに5分の1でボロニア500グラムを入手したことがわかります。
前の設定を見直してみる
上の記事の中で、私は当時の価格を現在に置き換えるうえで、月の手取り額を30万円と仮定しました。
しかし、29歳の朝倉は安月給に苦しむサラリーマンです。
作中では、ボーナスがあるからなんとか人間並みの生活ができていると書かれていますから、月の手取り額は相当低めだということです。
ということは、現在に直して30万円もあるとは到底思えません
では令和3年現在、一人暮らしのサラリーマンが、まともな生活ができるかできないかギリギリのラインはどのくらいでしょうか。
これは住む地域によってまちまちだと思いますが、朝倉は上目黒のアパートに住んでいます。
都内に住み、家賃を支払い、食料や光熱水料そして日用品などの出費をしつつのギリギリなサラリーマンの生活ラインとなると、これはかつての自分自身の経験なども踏まえざっくり言うと、手取りで月12万円程度のような気がします。
だからこれを基準にしましょう
2,400円で買えるボロニアソーセージの肉量
朝倉の手取りを現在に置き換え月12万円と設定しました。
つまり、彼がありったけの古本を売り払って得たお金は、その10分の1なので12000円ということになる
そして、その5分の1を使ってボロニアソーセージを500グラム買った
1万2000円の5分の1といえば2,400円
以前の記事で参考例として挙げたこのボロニアソーセージは1 キロで3,160円ですから、そうなるとこの「2個セット」は買えません。
しかし、半分だけ買うとして単純に2で割れば500グラム当たり1,580円ですから、2,400円の65%程度で済みます。
手元には820円残るので、これならば卵を5個買い足すのも余裕ですね。
ちなみに、500円でボロニアと卵を買った朝倉には、手元に残るお釣りはほぼ無かったはず。
『蘇る金狼』の作者・大藪春彦さんは、数字をかなり細かく設定してから執筆する傾向があるようで、物語初期の貧乏な朝倉の財布事情は、比較的克明に描かれています。
もしも買い物代金が400円前後なら、小説の中でも「400円が消えた」と記述されるはず。
だから「500円が消えた」という書き方になっている以上、ボロニアと卵を買ったら、ほぼお釣りもなく500円が無くなったという傍証になる。
やはり、昭和41年当時にボロニアソーセージを買うのは少し贅沢だったのかもしれません。
”畑の肉” 大豆ならばもっと安かったのでしょうが、ハードボイルドの朝倉君としてはそういった妥協はできなかったと考えられます
ボロニア半キロは半日分のエネルギー
さて、ここで記事のタイトルにある「1800万円でボロニアソーセージ一生分が買えるか?」ですが、朝倉が強奪した1800万円をすべてボロニアに変えるとします。
500円で500グラムなので、1,000円なら1キロ買えることになります。
完全に卵を無視していますが、おそらく大量のボロニアを買えば卵はオマケで付けてくれると期待します。
そして、1800万円で1万8000キロのボロニアを買う約束を、肉屋との間で取り決める。
これが彼の食生活に、どれほどのインパクトを与えるか?
朝倉は日曜の夕方に500グラムのボロニアを食べ「これでたとえ明日まで何も食わなくても体力は続くだろう」と計算します
夕方から夜間にかけて活動し、少しは眠るでしょう。
翌朝目覚めたときを ”明日” として、「何も食わなくても体力が続く時間」は約12時間と見てよいかと思います。
つまりだいたい半日ぐらいはボロニア500グラムで過ごせる計算になる。
となれば、朝倉には1日1キロのボロニアが必要だという結論になります。
1,800万円で一生分のボロニア投資
1万8000キロのボロニアソーセージを買えば、朝倉君は1万8000日過ごすだけの肉量を得られます。
人間は82歳まで生きるとして、だいたい3万日を過ごす。
朝倉は現在 29歳ですから、だいたい1万日余り経過しています。
つまりあと2万日ぐらい生きるという計算ができるでしょう。
1万8000日分のボロニアを手に入れれば、将来の年齢的な食欲減退も見込んで、彼は今後の人生の肉代金を確保しきったと言えそうです。これはでかい。
それだけのボロニアを安定的に継続購入するならば、肉屋と単価契約をして、もっと安く買うことも可能になるでしょう。
インフレ対策として肉屋への追加支払いは当然生じますが、長いスパンで物価上昇分を追加負担するだけなら、代金全額負担と比較すればさほどの痛手にはならない。
たとえ月の給料の手取り額が25,000円だとしても、ボロニアの確保を考えなくても良いので、全額をそれ以外の支出に振り向けることができます。
物語全般を通じて異常なほどのタフガイである朝倉は、おそらく肉ゲージ(満腹ゲージ)が満タンならHPが自動回復するマイクラ式の活動エネルギーで動いているように見えます。
⇧こちらの画像は「ひきこもろん」さんのサイトから頂きました。
この方のサイト見やすくて好きです
『蘇る金狼』の楽しみ方
『蘇る金狼』を読む普通の読者は朝倉のタフネスぶりに「ハードボイルド」を感じて楽しむのでしょうが、食事シーンばかりを見ている私はどうしても『孤独のグルメ』がオーバーラップしてしまうようです。
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そして、肉ゲージ回復効率の高いボロニアの確保は、何よりも重視したいところ
もしも1800万円をすべてボロニア投資すれば、彼はその無限大の行動力で、ビッグマネーを勝ち取ることでしょう。
彼はこの後、ナンバーを控えられている危険な紙幣を、安全して使えるものにしなければなりません。
そこで、持ち前の行動力を発揮する必要がありますが、あいにく薄給の彼には原資が無い。
このあたりの飢え具合が、個人的には一番好きなシーンの連続となります(もちろん食事シーン)。
ここまでのことから、昭和41年に1800万円を手に入れるということは、それだけのインパクトがあることと考えて良さそうです。