1本の記事で終わらせる気だったのに・・
ついつい想像が走ってすっかり長引いてしまった『坂の上の雲』の1エピソード。
多くの方がご存じとは思いますが『坂の上の雲』は明治期の日清・日露戦争あたりを主題に秋山好古・真之兄弟と正岡子規を描いた名作として名高いですね。
たしか全書版だと全5巻で、私が読んだ文庫版だと全8巻です。
長い物語ですが、主役が3人という時点で群像劇確定といった感じで、3人以外にも多くの登場人物がピックアップされ、中には主役級の扱いになっている人物さえいます。
そんな中で、第2巻に登場する桝本卯平の話は群像の中でも短い方で、数にすればたったの5ページしかありません。
さらにその中で、彼が働いたフィラデルフィアの造船工場の職工たちの「食」や「住」に割かれたボリュームはわずか9行に過ぎない。
そのわずかな隙間をこじ開け、多くの字数を費やした「角打ちの酒屋話」も今回で終わりにしましょう。
もっとも「角打ちの酒屋」も私の想像でしかありませんが・・
『サンドウィッチ攻略』で終わる坂の上の雲、第2巻
謎の「サンドウィッチ」について一定の解釈が成り立てば、私の想像にもカタがつく。
ということで、「飲みきれぬほどのビール」と共に職工たちの眼前に置かれた食物のラインナップをおさらいしてみます。
1.ビーフ
2.ハム
3.サンドウィッチ
4.ビスケット
5.チーズ
4ビスケットを除くすべての具材を3サンドウィッチで挟めば良いのだけれど、それをやると1、2、5の表記が消えて、活気ある職工たちの描写がいかにも貧相になる・・という理由なのかどうかはともかく、『坂の上の雲』ではこの5品目が書かれています。
アメリカのことは、「アメリカの記憶」で考えてみよう
ここでふと頭をよぎったのが、かつて一度だけ経験した米軍基地内での食事です。
役所に勤めていたころの出張でのことです。
私は海外には一度も行っていないけれど、日本の治外法権に「出た」ことはあります。
米兵たちが利用する基地内の「食堂」を使う日本人は決して多くないでしょう。
施設管理などの理由で米軍基地内で働く日本人を除けば、その食堂を利用するのは当然アメリカ人ばかりということになるはずので、メニューはすべて英語で書かれていました。
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しかしなぜかこの食堂では、日本人のおばちゃんたちが働いていた。
この人たち、英語なんて喋れんのでは?という、地元感あふれる田舎のおばちゃんたちが、私達の一行4人を迎えてくれました。
手作り感たっぷりのメニューには写真がない。
英語が読めなくて戸惑う私達に、おばちゃんが料理の説明をしてくれました。
当時の私は料理を全くしなかったため食材の知識も薄く、せっかくおばちゃんが日本語で説明してくれているのに結局内容がわからず、無難なハンバーガーを選択。
他のメンバーも同様だったようで、たしか1人を除いて全員がハンバーガーをオーダーしました。別メニューを頼んだ1人は、おばちゃんの説明を理解したのでしょう。
飲みものは私を含む3人がアイスティー、1人がホットコーヒーでした
(30年近く前なのによく覚えてるな・・)
(いや、この記憶こそ『坂の上の雲 第2巻』の謎を解くカギとして、私の頭から消えずに残っていたに違いない ( ー`дー´)キリッ
「支払いは千円札だけ」という縛りプレイが楽しい食事
ちょっと面白かったのが、この食堂、支払いにはアメリカの通貨が必要ですが、それを持っていない日本人には千円札での決済のみ認められていました。
なぜか千円札限定です。
そしてお釣りはアメリカのお金で渡される。
たしかおばちゃんがその日の円相場を見ながら計算してたっけ。
メニューの大半は6ドル後半から8ドル前半くらいですから、当時だとお釣りに紙幣が混ざります。
アメリカの貨幣渡されてもなぁ・・
結局、紙幣は両替し、コインは・・どうしたっけ?
飲み物と付け合せに圧倒される。「アメリカ人って、こんなに食うのか!?」
それはいいとして、テーブルについて料理を待つ私達4人の前には、やがてトレイを持ったおばちゃんたちが登場します。
バーガーよりも飲み物にまず驚いたのですが、たかが3人で頼んだアイスティーが、でかいピッチャーで提供されました。まさに「飲みきれぬほどのアイスティー」
ホットコーヒーにしても同様で、たった一人に対し3〜4杯は入っていそうなポットがドンと置かれる。こちらも「飲みきれぬほどのコーヒー」といってよいでしょう。
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付け合せのポテトフライも、拳ぐらいの大きさのじゃがいもを最低でも3つぐらい使ったんじゃないかと思われるほどの量が、一人ひとりの皿の上にドッカリと乗せられている。
「アメリカ人てのは、毎回こんなに飲み食いするのか?」
そうも思ったのですが、もしかしたら珍しい日本人客に、おばちゃんたちがサービスしてくれたのだろうかとの考えも交錯する。
とにかく私達4人は、そのボリュームに圧倒されながら料理に取り組むことになった。
「ハンバーガーの開き」は初めての経験だった
で、肝心のハンバーガーです。
飲み物とポテトのインパクトがでかすぎて影が薄かったのだけれども、これは興味深いことに『オープンサンド』だった。
バーガーじゃない料理を頼んだ人が居たお陰で分かりましたが、たしかに料理が並んだ光景を目の当たりにすると、もしこれでバーガーが閉じた状態で出されたとしたら、なんとなく「アメリカの食堂の料理」として、他のメニューとの平仄が合わない。
私達が入ったのは ”簡易な食堂” なのですが、他の料理と並べると、”閉じたバーガー” はファーストフード店感が際立ってしまう気がします(偏見かもしれないけど)。
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やはり自分なりの『答え』はアメリカにあった
そう。きっと、フィラデルフィアの造船工場近くの酒屋で角うち的に出された「サンドウィッチ」とはオープンサンドで、極端に言えば「パンだけ」だったのかもしれない。
パンの上に、手で大雑把に割いた程度のレタス、手早くスライスしたトマトやオニオンでも乗せられていれば、そこへハムとチーズを重ねれば立派なハムサンドになる。
さらに目玉焼き、炒めたきのこ類などが乗っかっていれば、それはもう結構な豪華版サンドイッチだ。
そして、この形式ならば「ビーフ」は「ハンバーグ」や「ステーキ」として提供されていてもよいのが強みになる。
様々にその姿を変える基本形態として「ビーフ」と表現されていたと考えて良い気がします。
というか、そうじゃないとついつい「ローストビーフのスライス」を想像してしまい「ハム」との差別化が難しい。
どうでしょう、この解釈。
これで、このシーンの9行を読みこなすときのディティールが随分と際立つのではないかと個人的には思っています。
サンドイッチやハンバーガーをパクつくときのお供としていかがですか、第2巻は?
(そんな酔狂な人はいないと思うけど・・)