私は暴力やエロス描写のある作品は好きではありません。
以上。
と、普通ならそれで、菊池作品の9割以上を切り捨てて終わってしまうところです。
しかし例外中の例外ながら、たった一人の主人公だけが、私の嗜好バリヤを破りました。
彼の名は秋せつら。
魔界都市ブルース〈1〉妖花の章 (ノン・ノベル―マン・サーチャー・シリーズ)]
不可解な大地震によって生じた大規模な亀裂により孤立した新宿区。
わずか数本のゲートでしか、区外と行き来できない隔離都市では、一般区民と共に、悪党や化け物が跋扈する。
区外並みの治安はもちろんあり得ない。
人々が生きてゆくための働き方や日々の生活も、新宿区民のそれは一風変わったものが多く、当たり前に明日を迎えられるとか、今日会った人と明日も変わらず会えるという甘い観測は、ここでは許されない。
そんな中、北新宿で3代続くせんべい屋の若主人・秋せつらが副業で営むのは「人捜し」
姿を消した人には様々な事情があり、巨悪極悪の渦巻く新宿では、人捜しの途上で危険な目に遭うこともしばしば。中には強敵もいる。
秋せつらが、そんな強敵と渡り合うために使う技は「糸」
(はぁ? ……糸?)
高校生の私にとって、全くピンとこないアイテムでした。
(たぶん)正義の主人公だろうし、悪と戦うカッコよい姿を想像していた私は、「糸でカッコよく戦う」という姿が、どうにもイメージできなかった。
実は菊池秀行さんの他の作品「魔界都市新宿」を読み、十六夜京也に憧れていた私。
(ちなみに、この「魔界都市新宿」は完全なる“青春冒険活劇”で、「戦い」はあるが「バイオレンス」ではなく、エロスも一切なしの健全作品です)
父の魂がこもった愛刀『阿修羅』という木刀と、やはり父から受け継いだ“念法”という特殊能力を駆使して、魔界の悪と勇ましく戦う主人公のイメージを強烈に抱き、もはや渇望といっても過言でないほど続編を求めていた私が、同じく「魔界都市」という名を冠するシリーズに十六夜京也の面影を引きずるのも無理はありません。
同時期に週刊少年チャンピオンで「魔界都市ハンター」という、やはり十六夜京也が主人公のマンガがあったので「魔界都市ブルース」というタイトルが、なおさら続編であることを期待させました。
書店でタイトルを見てハッとし、急いで手に取り、興奮しながらパラパラとページをめくり、「十六夜」や「念法」、または「阿修羅」といった文字を探しまくる私の目に、目の毒のエロス&バイオレンスが次々に飛び込んでくる。
いたたまれずに本を手放すも、京也がどこかに出ているのではないかと気になって仕方ない。
裏表紙の物語説明を穴のあくほど丹念に読み返し、十六夜念法や京也の影を必死に想像するが、どうにも結びつかないまま諦めました。
しかしどうにも気になって、その後も度々手にとっては確かめ、諦めて本を置くという繰り返しのまま、10年以上が経過。
(糸で戦うってどういうことだ?)
到底カッコいいとは思えないにも関わらず、シリーズは続編が次々に出ている。
まだ見ぬ秋せつら。
ハードルの高さは、弥増しに増していったのでした(続く)