【感情会計】善意と悪意のバランスシート

善と悪の差し引き感情=幸福度

【北斗の拳の食事情】②マズそうなメシ

北斗の拳の象徴的な食事シーン・第2弾です。

今回は『マズそう』がテーマです。

 

前回も軽く書きましたが、北斗の拳は愛憎や友誼・信念や使命といった、熱い想いや形而上の世界観を描く物語ゆえ、「食事」を表現する重要性は低く、さほど重視した描かれ方はしていません。

blog.dbmschool.net

 

その意味で、読み手側としてはもともと『美味』を追求するアプローチが難しい作品です。

 

 

レイよ、お前が口にしているのは『食べ物』なのか?

殺した悪党の懐をまさぐって取り出した食料を、りんごの丸かじりみたいな握り方をしつつひとりごちているのは、南斗水鳥拳の使い手・レイです。

(レイが初登場するのは第3巻)


北斗の拳 3巻

 

「泥をすすってでも」という絶妙のセリフも相まって、そこに美味さを感じる要素がまったくない。

 

「レイ、お前なに食ってんだ?」と言いたくなります。


形状から想像すると、くたびれたスポンジか何かのよう・・

しかしこの食料、何なのでしょう?

 

これを食べているなら納得。サバイバルにはやっぱりバランス栄養食

もしもカロリーメイトが2本結節したものが3つくらい重なっていたとしたら、ちょっと近い感じかもしれません。

レイがやっつけた悪党は、バランスタイプの行動食を持ち歩いていたのでしょう。

 

しかし、カロリーメイト6本分を一気食いか・・

 

私はカロリーメイトにはかなりお世話になっただけあって、あの味には非常に馴染みがあるのですが、さすがに飽きが来そうです。

 

やはりここで利いてくるのが「泥をすすってでも」と、味を完全に放棄した発言でしょう。

 

口の中がパサパサになるので、むしろ泥水をすすって少し湿らせたくなるかもしれない・・

 

魔界で食べるのに適した食料とは

一応、わかりやすい例としてカロリーメイトを挙げましたが、私が北斗の拳の第3巻でレイの食事シーンを読みながら考えていたのは、菊地秀行さんのデビュー作『魔界都市・<新宿>』で登場した宇宙食です。


魔界都市〈新宿〉完全版 (ソノラマノベルス)

 

妖魔と戦ってヘトヘトになった十六夜京也が転がり込んだ早稲田の粗末なホテルで、ガラの悪いオヤジが「ほら、兄ちゃん、朝飯だぜ」と乱暴にトレイに乗せて持ってきたのはウエハース型の合成食。

” 犬も吐き出す ” と揶揄されるほど不味い散々な食事を客に出すなんて・・と京也はうんざりしますが、なんたってここは<新宿>。食事にありつけるだけまだマシかと思い直します。

 

「泥をすすってでも生き延びる」と豪語したレイなら、合成食のウエハースだって食えれば良いと割り切ることでしょう。

 

食事シーンに定評のある井上敏樹作品【仮面ライダー555】史上、最もマズそうな料理

後年、これに匹敵する ” 不味そうな食事 ” と思ったのが『仮面ライダー555(ファイズ)』の中のワンシーンです。


仮面ライダー 平成 vol.4 仮面ライダー555 (平成ライダーシリーズMOOK)

 

この作品は特撮シリーズ物としては稀有なパターンで、1年を通して一人の脚本家が書ききっています。

 

その世界では ”御大” の呼び声高き脚本家の井上敏樹さんは、豪快なオレ様タイプでありつつ料理がお好きらしく、作中でも頻繁に料理や食事のシーンが魅力的に描かれています。


小説 仮面ライダーファイズ (講談社キャラクター文庫)

 

『味』を全く感じないトースト

そんな井上御大にしては、たった一箇所ですが、超マズそうな食事のシーンが存在する。

 

第49話で主人公のタクミと、元々は怪人側の一人だったカイドウが、カフェレストラン的なお店で朝食を摂っているシーンです。


仮面ライダーファイズフォトブックCD1 乾巧(CCCD)

 

2号ライダー「カイザ」に変身するクサカが命を落とした直後、ショックを受けるタクミは、自分たちが守ってきた少年・テルオこそ、倒さねばならない『オルフェノクの王』であることを知り、深い葛藤に苛まれる。

 

そんなタクミを前に、テルオに対して最も感情移入しているカイドウは「テルオは俺たちで絶対に守ってやるんだ!」と息巻いていて、懊悩するタクミの心情と見事なコントラストを形成している。


海堂直也 (仮面ライダー555フォトブックCD)

 

「オイ、聞いてっか!?」


と、けしかけるように問いかけるカイドウに対し、うるさそうに「アアッ・・!」と応じながら、ゆっくりとトーストをかじるタクミ。

このときのトーストが、それはそれはメッチャまずそう。

 

味なんか全く感じてなさそうなところが、タクミの置かれた状況を雄弁に物語っている。

 

トーストに感情移入する絶妙なシーン

ずっと活気のある食事シーンを描いてきた井上さんだけに、ここぞとばかりに設定した第49話の象徴的な描写は、実に説得力を持って私に迫ってきた。

 

思えば、タクミとカイドウの平和なツーショットシーンなんて、シリーズ通してここしかないという違和感によって、ひときわ『浮いた』状況設定でした。

 

舞台で言えば『真っ暗な中で役者の二人だけがスポットに照らされたシーン』といって良い。

 


絶版カードダス 仮 面 ライダ ーファイズ 夢の守り人(乾巧 半田健人) 豪華箔押仕様

イケメンの半田くんが発する、うるさい会話を打ち切る「アアッ・・!」にキュンとなって感情移入したママさんたちが多かったシーンだと思いますが、私が感情移入したのは『不味そうなトースト』だった。

 

仮面ライダーシリーズはYouTubeでかわるがわる配信されているので、ファイズの配信期間になって、もしも覚えていたら(?)、ぜひ49話のこのシーンを見ていただきたい。


第49話

 

レイの姿を描いたコマが、オーバラップして来るのではないかと思います。