往年の仮面ライダーのナレーション風に冒頭説明をしてみますので、中江真司さんの声を想像しながら読んでみてください。
台湾生まれの作家、邱永漢氏はこう言った
小説を書く際つねに気にしていたのは『いま主人公の財布にはいくら入っているか?』だと
人物の動きとは、すなわちカネの動きだ
ライダーの主人公が活躍する1年間のリアリティを裏付けるため、四緑文鳥は今日も重箱の隅をつつくのだ
(中江さんの声を切り抜いた16秒の動画を見つけたので張っておきます。これを聞いたあとで、もう一度上の文章を読んでみてほしい)
若くてイケメンで金持ちのライダーなんてアリなのか?
前回は、れっきとした職を持っていたり、あるいは現役の学生である主人公についてふれました。
アンケートの職業欄に「会社員」「団体職員」「会社役員」または「学生」といった選択肢が存在すれば、迷うことなくそこにチェックを付けられる面々です。
彼らはいずれも生活の糧をどうやって得ているのかが明確で、それによってライダーとしての活動をしているというリアリティがある。
やはり、それ相応に稼いでいることの裏付け描写は、ドラマ構成上不可欠な要素だと思います。1年間の生活を描くドラマですからね。
ではここで、ちょっと特殊な例として、働いてはいないが生活には困っていない資産家ライダーを挙げてみましょう。
港区ライダーの【カブト】
働かなくとも生活に不自由がなさそうなのが【カブト】の天道総司です。
彼は東京タワー近くの一軒家に、妹の樹花と2人で住んでいます。
住所で言えば港区あたりに位置するでしょう。
六本木だの麻布十番だの南青山だのといった「いわゆる」的な地名が目白押しの一帯です。
そんな区域に建つ一軒家ですが、敷地面積もかなりのもの。
門から玄関までは、広い庭を通り抜けないと辿り着かないほど広々している。
居間だけで金持ちぶりを描写
天道家が映るシーンの9割以上が『居間』で、ここがこの家の・・というか【カブト】の象徴シーンといえるでしょう。(もうひとつは『ビストロ・サル』の店内)
もともと窓の多い明るい居間ですが、特に、庭に面した窓際部分では、天井部分が庭に向かって若干下がり気味に傾斜し、その傾斜面に採光窓が取り付けられているという贅沢な造りです。
広い居間なのに暗さが感じられないのは、この圧倒的な採光へのこだわりではないかと思われる。
その広い居間の一角にあるダイニングスペースは、3段ほどの階段を昇った高さにあるので、そのスペースだけは床から天井までの距離が、他の部分よりも狭い。
にも拘らず、そこに立っても天井が低く感じないほど居間全体が上下に広く、ゆったりした空間を惜しげもなく提供しています。
そして大量に置かれた観葉植物。
鉢を一箇所に集めたら、それだけで何畳分のスペースが要るだろうかと思わせるほどやたらに多い。
子供が駆け回れる回廊
また、居間に面した2階の内回廊を、樹花がグルリと回って駆け降りてくる様子が何度も描かれますが、中学生が駆け回れるほどの広さであることがわかります。
ダイニングと厨房を隔てるのは「衝立」じゃなく『通路』
ダイニングの横にある厨房スペースがダイニングと直接隣り合っておらず、間にソファや観葉植物が置かれるほどゆったりした通路を挟んでいるため、クッカーやシンクの正面に立つと、ダイニングまでの間にもう一部屋作れそうな余裕さえ感じる。
一度も登場しない「おばあちゃん」の素性が明かされないので詳しくはわかりませんが、相当な財力を持った名門といった感じだし、見たところ天道は食材以外にお金をかけている様子がまったくといってよいほど見られないので、既存の財産から発生する収入だけでも、充分に活動ができるでしょう。
「理由もなくお金には不自由していない」ではなく、暮らしぶりから資産家の子弟であることを強めに表現している点は、やはりリアリティの実現に貢献していると思います。
ほんとうは必要経費が高い ”仮面ライダー業”
・・と、ここまではどちらかといえば “暮らし向き安定” な主人公たちを列挙しました。
しかし、これ以外の主人公は色々と不安な点が見られるような気がします。
成人ひとりが衣食住を確保するだけでもそれなりの元手がいるうえ、彼らは慎ましやかに暮らせる立場にはいない。
ケガの治療や、破損した器具の修理・買い替えなども頻繁に起きる。
激しく動いてお腹も空くでしょうから食費だってそれなりにかかるでしょう。
意外にかかるはずの被服費
それから何気に嵩みそうなのが被服関係費用。
なにせ彼らはしょっちゅう川に落ちるし、地面に転がる回数も小学生並みに多い。
全般的に服の汚れや傷みが激しく、洗濯機を回す回数やクリーニング代などで、地味な出費ではあるが被服関係の経費は、一般の独身サラリーマンの数倍は要すると思う。
一口に ”足代” と言っても・・
それから、彼らは移動するにもお金がかかる。
我々だって、普段の移動なら徒歩や自転車、または公共交通機関の通常運賃で安めに抑えますが、急ぐ場合は速度に見合ったコストを支払わねばならない。
現場へ急行する機会が多い彼らの場合、移動にはバイクが用いられがちです。
当然ガソリン代や整備代だって生活費に大きく食い入ってくるはずですが、なにせこれらは必要経費であり、必須経費でもあるので削ることができない。
それから【ディケイド】以外は1年間の日常を描いているので、シリーズ途中で必ず軽自動車税の支払いがある。
(厳密には【ディケイド】は1月〜8月までのため途中で納付期限を迎えるのだが、門矢士は支払いをバックレそうなヤツでもある)
(【ディケイド】の後番組【W】で督促状を受け取った左翔太郎がハットに片手をかけながら天を仰ぐ様子が容易に想像できる)
また、仮面ライダーシリーズ自体が長期に渡っているため、ちょうど車検の年にあたったライダーは、自動車重量税をも負担しなければならない。
平成第一作目の【クウガ】と二作目の【アギト】は、作中の時間経過では「2年後」としているが、これは車検を避けるためだったのではないかと邪推したくなります(なんてね)
・・とまあ冗談はさておき、前回と今回は活動経費の出どころがわかり易く証明されているシリーズ作品を列挙してみました。
次回は、そういった経済的な後ろ盾がなさそうな主人公たちを挙げていきましょう。