前回、部下同士の間で発生中の揉め事を見て、上司であるあなたが状況を把握するための5つの行動パターンを併記し、その場で部下たちに働きかける3形態(即時性)について特徴を並べてみました。
Ⅰ:「どうした?」と、自席から部下たちが揉めている場所に移動して質問する
Ⅱ:「どうした?」と、自席に座ったまま声をかける
Ⅲ:「どうした?」と、あなたの腹心の部下に訊きに行かせる
Ⅳ:「さっき揉めてたの、何だったの?」と、当事者のひとりに質問する
Ⅴ:(さっきのゴタゴタは何だったんだろう?)と、そのとき現場のすぐ近くに居た、当事者以外の人に訊いて回る
今回は残りの2つ、「その場では一切関わらずに、後から行動するパターン」です。
慎重さを選択して得られる結果とは
揉め事にリアルタイムで入り込むのは、ぶっつけ本番の生放送みたいな一面があって苦手な人もいるでしょう。
「叱る」「注意する」が苦手な人だと特に、抵抗感のある方が多そうです。
互いに譲り合えず、ぶつかってしまうほどの事態が生じているなら、最も過熱している瞬間は接触を避け、充分な情報を取得したうえで事態の解決に乗り出したい。
内省型で慎重を期するタイプの人は、野球のバッターに例えるなら「空振りより見送り派」ではないでしょうか。
どうせストライクのカウントを1個増やすなら、じっくりと球筋を見極めてから勝負したいタイプです。
むやみとバットを振り回すより、目線をしっかり固定して、ピッチャーや野手のほか、ベンチやランナーの様子、すぐそばのキャッチャーの息遣いに至るまでをよく把握し、会心のヒットを狙いたい。
ただし、ストライクカウントが1個増えればその分だけ追い込まれるので、シビアな状態で勝負所を迎えることは否めません。
揉めている部下たちを「見送る」ことのリスク対策は充分でしょうか?
Ⅳ:「さっき揉めてたの、何だったの?」と、当事者のひとりに質問する
これは、揉めたメンバーの中で、最も冷静な部下を絞り込んで情報収集できる方法です。
もしくは、冷静かどうかはともかく、あなたが最も話しやすい相手を選ぶことができます。
ただし、諍いが収まった後、全員がそのまま近くにある自分の席に戻って動かないと、あなたは話しかけるタイミングを失います。
とはいえ、すでに諍いのピークは去っているので、この時点ならばメールでのコンタクトも可能でしょう。
あまり込み入った内容でなければ、あなたからの質問メールを受けた部下は、顛末を返信してくれるでしょうが、「なぜその場で会話に参加しなかったか?」という無言の(あるいは明記された)問いかけに、あなたは自信を持って応じられるでしょうか?
部下の目に「慎重さ」に映るか「卑怯さ」と受け取られるか?
目の前で諍いが起きるや否や、用事のあるふりをして席を外す上司もいます。
それを言い訳にして、ピーク時の関わり合いを避けますが、はっきり言って部下にはバレます。
付け加えると、そういう人は毎回同じ手を使うので、部下からも簡単に次の行動を予測されます。
白々しい言い訳の文言まで読まれ、ちょっとしたバリエーションの違いが部下たちの愚痴トークのネタになります。
(「今日はウソの内線掛けて呼ばれたフリで出て行ったね」
「昨日は家族との会話っぽくスマホ持って出てったよ」
「あの状況でジュース買いに行く?ありえないよね」等)
「一球見逃し」は結構なのですが、軽蔑の対象になる先人がたくさんいるせいで、あなたが採った待球戦法は、思った以上にリカバリーが難しい。
何よりも、ここでのテーマはこれです。
『部下たちが揉めている状況を目にしたとき
(何が起きてるのか、知りたいな)というあなたの気持ちを、部下にどう表現するか?』
メールを送った部下に対しては、あなたが関心を持っていることをアピールできますが、それ以外のメンバーには「見て見ぬふり」という印象が残ります。
「怖いから、怖がりながら接する」は、無様なこともあるかもしれませんが、誠実さがうかがい知れます。
「怖いから、見て見ぬふりをする」は、見ず知らずの関係なら許されても、上司の態度として、それをやったらもっと怖いことが起きかねません。
アサーション(自己表現)は、上司になるための基礎中の基礎となる素養かもしれません。
Ⅴ:(さっきのゴタゴタは何だったんだろう?)と、そのとき現場のすぐ近くに居た、当事者以外の人に訊いて回る
ここまでの説明で、最後のこのパターンが一番モヤモヤすることは明らかでしょう。
あなたの行為を部下に知られ「コソコソ嗅ぎ回っている」と思われたら、その時点で信頼関係は消滅しかねません。
もううっすらとした記憶でしかありませんが、私が環境省にいた頃にも、こんなことをやっていた上司がいました。
一日中在席していたにもかかわらず、夜になって当事者たちが帰宅した後に周囲に質問している。
課長補佐クラスだと係員は2階層ほど下になるので、直接関わって来ないのは決して不自然なことではありませんが、担当している係が2つしかない場合の部下の数は多くても6人程度ですから範囲が狭い。
係員でも距離が近いから、見守っているのか逃げているのかぐらいはすぐにわかります。
「見守る」タイプの人だと、必要な場合はすぐさま係長に指示を出して問題点の是正にかかるので、間の抜けたタイミングで情報収集するようなマネはしません。
直接聞き取りつつ諭す必要があれば、係長を同座させるなど職階の紊乱を避けつつ、当事者を自分のところに呼んで、自ら前面に出て対応します。
私はどちらのタイプの上司(この場合でいえば課長補佐)ともたくさん接したため、その人たちのその後についても実見してきましたが、その差は歴然としています。
おそらく、どちらタイプの上司も、若いころには「ちょっとした性格や気質の違い」がある程度だったのでしょう。
役職が上がって部下を持ち、前線からの距離が遠くなるにつれ、「業務スキル」と「人間関係力」の掛け算の値で決まる上司力に、挽回不可能なほどの差がついてしまったのだと思います。
さて、ⅠからⅤまで、揉める部下たちを見たときの上司の自己表現を語ってきました。
参考までに、私自身がどうしているのかということを披露して終わりたいのですが、それは次回記事といたします。