「何を食うかね?」
ニコ来食堂で卓についたばかりの篤蔵に、兄の周太郎から刺激的なキラーワードが・・
前回記事⇩⇩に続いて、いよいよオーダーするシーンです。
何を食うかと問われたのが五郎さんなら
「さて、俺は何を食うべきか? 俺の胃袋はいま何を欲しているのか?」とじっくり構え、たっぷりと尺を取ることでしょう。
そのときはきっとBGMもかかっているはず・・
兄に任せた結果「ショウテイ」を食べる羽目に・・
このときの高浜篤蔵は、生まれて初めての東京で、聞いたこともない名前の食べ物が壁にごちゃごちゃ並んでいる光景に戸惑っています。
元来やんちゃでワガママな篤蔵少年ですが、これは明治時代の話。家長絶対主義が自然な時代です。
高浜家はちょっとした家柄でもあったようですから、兄を差し置いて好き勝手な振る舞いは許されない環境だったらしい。
そこで育った篤蔵にも長幼の序の精神は受け継がれているので、兄には従順です。
ここでは、かしこまりが半分、甘え半分といった体で
「何でもいい。兄さんと同じ物を・・」と、気弱な答えを選択します。
すると兄は店員を呼んで、このようにオーダーする。
「ショウテイ二つ」
なんのことか理解できない篤蔵に、兄は説明します。
どうやらショウテイとは「少定食」らしい。
定食には大と小があって、それぞれ大定と少定と表現されているようです。
おかずは同じだけれども、御飯の量がことなるということです。
要は「ご飯ふつう盛り」を注文したことになる。
これは篤蔵、痛恨のミスです。
虚弱体質な兄にとってはショウテイで充分ですが、頑健で動き回る篤蔵にとっては到底足りない。
彼はこの日の早朝に御殿場で買った汽車弁当を車中で食べたきりですから、ぜひとも大盛り(ダイテイ)をオーダーしたいところでした。
昼メシ食べ終わったときに空腹感が残ってると、考えるのは夕食のことばかり・・
知らなかったから仕方がないこととはいえ、私はここが気になって仕方なかった。
ポテチもカールも売っていなかったこの時代、食べ終わっても腹が減っている状況を打破するアイテムは今ほど簡単には手に入らないと考えて良いでしょう。
せめて、ボリュームのあるおかずが出てくれれば、と。
まだ見ぬショウテイに、大いなる期待を込めて読み進めた初読の記憶が蘇ります。
せめて肉を、篤蔵少年とルフィーには肉を与えてやってくれ!
で、このシーンではこう書かれています。
たすき掛けのキビキビした小女の運んで来た膳には、飯とみそ汁と香の物のほかに、
なるほど、一銭五厘の白飯(小)と二銭のみそ汁、そして五厘のお新香というわけだ。
先ほどの黒板メニューは、やはり定食の基礎を分解したものとみて良い。
ついでに値段もわかるぞ。これで四銭というわけだ。
さて、主菜はなにかな?
カレイの煮つけと、すこしばかりの煮豆がのっていて
肉・・肉・・肉は・・?
たしかに『畑の肉』は乗ってるが、これで篤蔵少年の腹は満たされるだろうか。
カレイの大きさが気になるシーン
『天皇の料理番』の舞台である明治後期頃は、まだ洋食が珍しかった時代ですから、魚肉と畑の肉なら充分だったのかもしれない。
けれど、空きっ腹の少年にとってはやはりもう少しパンチが欲しかった気がします。
カレイの大きさも書かれていますが・・『三寸』
10センチ程度ってこと? ちょっと小さくないかな?
アワビ頼んだらトコブシが出てきた、みたいな? きっと味は良いんだろうな・・
案の定、篤蔵はきれいに平らげつつ、御飯の量の少なさを感じています。
一日に4合程度の米を食べていた頃とそう違わない明治期ということで、いわゆる「普通盛り」でも軽く1合は超えていたと考えたいところです。
メニューがシンプルであればこそ、汁物と香の物で白飯をバクバクいって、魚肉と煮豆はバクバクを推進する頼もしい用心棒といったところでしょう。
私の想像ではカレイは小ぶりゆえ三銭、「すこしばかりの煮豆」は白飯(小)と同じ一銭五厘といったところで、このショウテイはシメて七銭五厘とみた。
ああ、やはり食事シーンは想像が楽しい・・