さて、間に挟んだネタ元の話で「陰徳ヒーロー」というテーマは、実はうすた京介さんの作品にインスパイアされたものであることを明かしました。
では、皮肉たっぷりにイジる、身勝手な考証を続けてまいりましょう。
『悪役』と『見守る存在』は充分にヒーロー引き立てているか?
平成仮面ライダーシリーズだと、必ずヒロインがいます。
しかも昭和の頃と違って、ヒロインの描き方にはかなりの力が注がれていて、その存在感は絶大です。
主人公に対する見守り効果も同様に絶大といってよいでしょう。
称賛されてしまう条件が厳しくなったな、平成ライダー。
【陰徳】は手放さざるを得ない状況だね。
なんとも意地の悪い視点ですが、このテーマではあくまでも、そのコンセプトでお送りしたいと思います。
名言と共に考える ~ 仮面ライダー555
さて、事例として登場していただくのはこの人です。
仮面ライダーファイズの主人公・乾巧
ぶっきらぼうな乾くんですが、彼が割と名言を吐きがちなことは、ファイズファンの間ではよく知られています。
ではまず、彼が発した中でも特に評価の高い2つの名言を並べてみましょう。
①もう俺は迷わない。迷ってるあいだに、人が死ぬなら・・・戦うことが罪なら、俺が背負ってやる!
②俺には夢がない。だが、(他人の)夢を守ることはできる。
この2つの名言のうち、①は明確に陰徳シーンとは異なっていて、それに対して②は明快な陰徳シーンであったことが、対比としてわかりやすい。
「戦うことが罪なら、俺が背負ってやる!」シーンの解説
ちょっと背景を説明しますが、①のセリフ「もう俺は迷わない。迷ってるあいだに、人が死ぬなら・・・戦うことが罪なら、俺が背負ってやる!」の元となったのは、乾巧の ”スランプ” です。
ジェイとの戦いに敗れ、お約束の川落ちで難を逃れた乾巧。
気を失ったまま川岸に流れついた彼を介抱したのは長田結花ですが、彼女もまたオルフェノク(怪人側)のひとり。
図らずも結花の正体を知ってしまった巧は「オルフェノクにも人間の心を持ったヤツがいる」と認識が変わってしまい、それまでの見敵必殺スタイルに陰りが生じてしまう。
気の迷いゆえにザコ敵すら倒しきれず、反撃されてピンチに陥ったところへ駆けつけた、犬猿の仲の草加雅人(カイザ)にピンチを救ってもらう屈辱。
そこで「腑抜け」や「使えないなぁ!」などの憎々しい暴言を受けてしまう。
さらには、ライダー形態同士とはいえ、一方的に激しくボコられる。
ふだんの巧なら、草加相手にここまで大人しくしているはずはない。
にも拘らず、ここでの彼はまさに腑抜けのごとく立ち直ることができない。
このくだりは見ていてツラいです。
その後のシーンで新たにオルフェノク発見の通報を受け、ヒロインの園田真理に見送られながら颯爽と出動するのは草加雅人。
心配げに見つめる真理に対し「乾くんが戦えなくても、俺が戦う」と大見得を切り、自分の優位性をほしいままにする草加に、なすすべもない主人公の乾巧・・・と。
あくまでもこれは物語のプロセスにすぎないのですが、すべてが『巧の名言』のための装飾のような造りで、壮大なカタルシスの仕込み作業に思えます。
さすがは井上のアニキ(脚本:井上敏樹)
怪人側に強烈なヒューマンストーリーが存在するファイズという作品では「怪人を倒してしまう」ことに、一定の見方(意義)を設けないといけないので、①の巧の名言は、必ずどこかでクローズアップしなければならなかったのでしょう。
”場づくり” に徹する2号ライダーの協力
真理に見送られて出動した草加は、道の途上に現れた仲間から「3本目のベルト」の情報を聞くやいなや顔色を変える。
オルフェノクに人が襲われているという報せをうけて急行中にも拘らず、彼は使命を放棄して
ヾ(・д・`)ォィ!
あっさりとサイドバッシャーの進路を変えてしまいます。
仮面ライダーカード SB-913V サイドバッシャー ビークルモード アイテムカード F-068 BANDAI 2003 SB-913V サイドバッシャー ビークルモード アイテムカード F-068
草加は彼の個人的関心で戦線を離れ、主役に見せ場を譲ることになる。
(よう出来とるなぁ・・)
こうやって行われた露払いの結果、真理と菊地啓太郎、そして乾巧がオルフェノクの眼前に立たされることになり、二人が見守る中で発された名言というわけであります
(変身シーンのエフェクトと主題歌のコンボもドハマリしていたなぁ)
巧の復活(腹くくって変身)が、ファイズ変身色の赤い光と共に広がって、真理と啓太郎の顔を照らす。
「喜び」と「うっとり」がミックスした表情でファイズを見つめる二人も、巧と一緒に何かの壁を越えた様子がうかがえる、ファイズの中でも必見のシーンは第17話⇧⇧です。
しかしこのシーン、ヒーロー物としては説得力抜群で「こういうのを求めてたんだよ!」と手放しに言えますが、今回の私の視点は【陰徳】です。
では、名言の②俺には夢がない。だが、(他人の)夢を守ることはできる。についてですが、これは次回にしましょう。