私が結構長いこと注目しているブロガーがいます。
「今頃ソーサリー」というタイトルで主にゲームブックの記事を書いている「68」と名乗る方です。
blog.livedoor.jp
スティーブジャクソンの傑作ロールプレイングゲーム『ソーサリー』
この方のことを知ったのは、2011年頃だったでしょうか。
ブログタイトルどおり『ソーサリー』という、“ゲームブック”のジャンルに属する作品のプレイ日記を連載なさっている最中のサイトへ、訪問させて頂きました。
ゲーム機不要のRPG
ゲームブックとは、RPGの書籍版といったコンセプトで、小説など普通の本と同じように冒頭から読み始めるのですが、最初のシーン(数行)には「一」と番号が振ってあり、最後に読者への質問が記されています。
「あなたはその男の言葉に従って、そばにある小屋に入ってみる(一五一へ進む)か、断って街道をまっすぐ進む(八九へ進む)、それともこの男を倒すために剣を抜く(二〇五へ進む)か?」
といったふうに、次は選んだ項目番号のページを開き、そこに書いてあるシーンの指示に従って冒険を続け、エンディングを目指すといったものです。
ゲームブックの最高峰『ソーサリー』
『ソーサリー』はスティーブ・ジャクソンという作家が創作した、ゲームブック界の最高傑作ともいえる、全4巻で構成された壮大な物語です。
奪われた王の冠を取り戻すために旅立った一人の若者が、幾多の苦難を乗り越えて大魔王のもとにたどり着き、戦って奪い返すという冒険小説を、読者がプレイヤーとして進めていくというもので、後に発売された『弟切草』や『かまいたちの夜』などの“読むゲーム”にも近いのですが、圧倒的にRPGの要素が強い。
当然、技量や体力や運勢などのパラメーターや、戦闘時の攻防の要素もあり、それらはサイコロの出目で決定されます。
また、武具や防具などの様々なアイテムを手に入れるため金貨と引き換えたり物々交換したり、商店や酒場や宿屋、罠やダンジョン、謎解きや魔法など、およそ一通りのRPG的要素をアナログにプレイできる、当時としては画期的なおもちゃでした。
68さんによる「20年後の挑戦」
68さんは連載開始当初、記事内で自分をアラサーと表現していたので、リアルソーサリー世代よりも若い方ですので、おそらくはゲームブック全盛の当時はプレイせず、2005年になって今さらながらこの作品に興味を持ってプレイし始めたようで、その状態をそのまま『今頃ソーサリー』とブログのタイトルにされたようです。
私がソーサリーにどハマりしていたことを差し引いても、この68さんの文章の書き方や挿絵(漫画の一コマやドラマ等の1画像)の使い方などには“面白いブログの造り”への高いセンスが感じられ、時折声を上げて笑ってしまうことがあります。
実は難しい「なりきりプレイ日記」
通常はプレイ日記というと、割と平たんなトレースになりがちです。
プレイ内容の記録なので、随所にツッコミを入れたりして起伏をつけようとしても、プレイヤーがその世界に入り込んでいる臨場感までを表現するのは並大抵のことではありません。
しかしなぜか68さんの場合はその描写を実現できていて、読んでいると実際に自分自身が冒険に参加しているかのように思わせる独特の世界観が、ユーモアあふれる文章や挿絵などのギミックで表現されているように思えます。
そのためでしょうが、次作でソーサリー同様に完結した『盗賊剣士』という作品などは、私は原作を全く知らなかったのですが、68プレイ日記作品としてあまりにも面白かったため、わざわざ購入してしまったほどです。
富樫的連載中断?
独特の世界観と臨場感でゲームブックのプレイ日記を展開する68さんですが、私が初めてブログを見た時は「ソーサリー」の連載途中で、最後の記事から1年以上時間が経っていました。
(ちなみに連載は2005年の2月からスタートし、任務完了して大魔王の砦を後にする記事は2013年7月に掲載されています)
連載が中断していたのは4巻の途中部分ですから佳境も佳境。
いよいよ大魔王の砦に潜入し、強敵や即死に至る罠が次々に現れるスリリングな展開です。
あまりの難易度に続ける意思を失くしてしまったのだとばかり思っていましたが、2年ぶりくらいにふと思い出してサイトを見てみると、見事に完結していました。
8年間にわたる挑戦
ご本人曰く「8年かけてクリアしたのは自分くらいだろう」と書いていますが、確かにそのとおりかもしれません。(私のクラスメイトはリアルソーサリー時代に、「4巻は24時間かかった」と達成感に満ちた顔で話していました)
まあ、私のクラスメイトは一人プレイしたにすぎず、不特定多数の読者が読む「プレイ日記」の連載ともなれば、かつ、68さんのように他者が読んでも面白い物語として表現するなら、当然、体験の密度を上げて文章化しなければならず、さぞ苦労が多かったと思います。
今ふうな『縛りプレイ』
また、ソーサリープレイヤーの大半は、サイコロの出目をやり直したり、選択を失敗したときに選び直すなどのズルをしていると思いますが、68さんはどうやらガチンコでやったらしく、選択を間違えてバッドエンドになるたび、巻の最初に戻ってパラメーターの再設定からやり直し、違う道を選んで未知のルートを描写したりしたようで、それを何度も繰り返しています。
ソーサリーで「最初からやり直し」は当たり前に起こることですが、これも「プレイ日記」を書く上では大きな障害となり、68さんも文中で吐露していますが、面白い読み物にするために毎回変化をつけて書くのが難しい。
だから「ダイジェストでお送りします」と書いて、ポイントを描画的に短文で表現したり、それも難しくなると、本文中に出てくる主人公が信仰する「女神リーブラ」を相方として登場させ、掛け合い漫才のようなスタイルで話を進めていくなど、ほぼ原作をベースに別作するかのようで、こういったところもまた「68的世界観」を構成する1要素であると思います。
独自の世界観を確立
ちなみにこのリーブラさんはすっかり相方としての立場が定着し、スティーブ・ジャクソンとは全く別の作者が書いた『盗賊都市』では当然原作には出てこないのに、68版盗賊都市では主人公と一緒に闇の世界で暗躍しています。
また、ソーサリーに登場する魔法の呪文を使おうとしてリーブラさんにど突かれたりするなど、68版ソーサリーの読者にとっては2度おいしい内容になっています。
現在68さんは、私がリクエストさせていただいた(私以外にもしていたでしょうが、掲示板で公開リクエストしたのは私だけのようです)『バルサスの要塞』をプレイ中で、これも2016年6月からスタートして既に2年続いています。
68版バルサスの要塞が始まってから、ついつい私も久しぶりにストーリーを確かめてみたくなり、最近アマゾンで原作を購入しました。今でも買えるというのが嬉しいです。
さて、本作は一体どのくらいの期間で完結するか? 68作品の中には打ち切りになったものもあるのですが、バルサスはそうならないことを秘かに望んでいます。