かなり昔のことですが、青春小説の旗手(と私は思っています)だった窪田僚さん。
代表作「ヘッドフォンララバイ」は、当時の私の思い込みをぶち破るインパクトを持っていました。
ヘッドフォン・ララバイ―公園通りの青春 (1981年) (集英社文庫―コバルトシリーズ)
「短文」、「頻繁な改行」が珍しかった時代の型破りな小説
今でこそ「1文ごとの改行」が多い小説なんて当たり前ですが、当時私が普通に読んでいた作品群では、セリフ以外で一文ごとに改行するなんて、『詩』ぐらいのものでした。
ヘッドフォンララバイでは、風景だけでなく、心の情景を描くような感じで、断片のように短文が1行掲載されている。
なんといっても、読みやすい。
ものすごく読みやすい。
国木田独歩や武者小路実篤や、森鴎外や夏目漱石とかと比べると、ものすごく読みやすい。
ヘッドフォンララバイシリーズは全4巻ですが、貪るように読みました。
珍しいことに、いまだに持っています。
<第2作 ミッドサマー・ウェザー>
高校最後の夏休み中のエピソードを描いています。
ミッドサマー・ウェザー (1982年) (集英社文庫―コバルトシリーズ)
<第3作 ツインハート・アベニュー>
夏休み明けから晩夏ぐらいまでのエピソードを描いています。
この本はもはやAmazonでも見つからなかったので、我が家の実物を撮影しました。
帯の煽りに時代を感じます。
<第4作 ハーフミラー・エイジ>
晩秋から初冬あたりのエピソード。このころは受験も今より大らかな時代だったことがうかがえます。
自炊できない独り暮らし男子高校生の食事情
さて、この作品はというと、淡島高校に通う3年生の風間黎(れい)という少年が主人公です。
父の転勤で北海道に引っ越す母や妹と離れ、東京の三宿のアパートで始まる一人暮らしの日常を綴った柔らかなストーリーです。
昭和50年代で、携帯電話なんてものは無く、コンビニ『サンチェーン』が健在の頃です。
そして、妹の朋(とも)など家族との会話で、2回ほど登場する「北京軒」という飲食店。
いかにも場末の中華屋というイメージですが、そこのメニューとして家族内の共通語になっている『豚肉みそ焼きライス』と『ゴム紐ラーメン』という料理が非常に印象に残ります。
街の小さな中華屋に入って、親父さんがチャンチャンと手際よく作って出てきそうな、味付けの濃い炒め物の定食や、一切凝ってないただただ普通のラーメンなどに郷愁を覚える男性は多いのではないでしょうか。
シリーズ4作通して、北京軒に入るシーンはただの一度も無いのに、なぜかこの存在感。
主人公の説明によると、北京軒は家族経営の店だそうです。
娘がふたり、店を手伝っていますが、本当は外へ働きに出たいのに親父さんがそれを許さないとかで、その不満が無造作な接客に表れているという記述があります。
どうもこの北京軒にもそれなりの物語がありそうだということが、小説の中にほのめかされていて、そんなところもリアリティを感じさせる要因になっています。
私も行ってみたいです。北京軒。