司馬遼太郎さんが『項羽と劉邦』で、主要な登場人物のキャラクターをどうやって「立てている」のか?
『項羽と劉邦』を絶賛する白蔵盈太さんが主張する、資料が少ない古代を舞台にした時にひときわ輝く司馬さんの「キャラを立てる」腕前。
私なりの解釈で書いている一連のシリーズですが、一番好きな張良よりも長尺になってしまった陳平。
さすがに今回で終わらせようと思います。
『スラムダンク』の強キャラ登場シーンと比較してみる
この『陳平の毒』という、陳平自身の名が冠された、彼が初登場する章には特徴があります。
現在進行中の「項羽対策」の中で、陳平自身のアクションがあまり描かれないという点です。

彼は項羽陣営に直接働きかけないのですが、その理由のひとつに、もともと楚軍からの鞍替え組である陳平の顔が、項羽陣営では知られているというものがある。
そのため、自身が矢面に立っての工作活動はしづらい。
この理由については作中でも具体的に説明されていて、明確な説得力があります。
ただ、私が『項羽と劉邦』のこの章を読んでいて思うのは、もっとメタ的な見方です。
強キャラ登場時の匂わせ演出
じつは『陳平の毒』という章は、一章まるごとが陳平への ”お膳立て” にすぎず、事実上は次の章こそが陳平のために司馬さんが用意した舞台ではないかと考えています。
スラムダンクに例えますが、翔陽高校の花形、海南大付属の牧紳一や神宗一郎といった強キャラが、初登場ではプレイシーンが描写されないあの感じが『陳平の毒』の中での陳平の扱いに似ている気がする。
初登場でプレイシーンが描かれない強キャラは、それでも強いことを読者にアピールする必要があるので、だいたいこんな演出がなされます。
100点ゲームで圧勝した湘北高校の感想を陵南の魚住から求められた花形が「おれたちなら200点とってるぜ」とイキってみせる。

鮮烈なデビューで会場を湧かせる湘北の1年生・流川楓を遠くから見守る牧が「まだ甘い」など見透かしたセリフを吐く。

イキるタイプでない神宗一郎の場合、湘北vs翔陽戦の後半に3Pシュートの連続成功で試合を牛耳る三井寿を見て「一度入りだすと止まらなくなるタイプかな」と穏やかに称賛したかと思うと、それに続けて「オレと同じタイプかな」と、只者でないシューターの匂わせをする。

しかし各人、匂わせのセリフこそ口にするものの、そのプレイぶりは隠しておく、と。
司馬さん、陳平でこれをやりましたね。
ちょっとだけ見せるほうのやつだ!
いや、一瞬だけ陳平の直接活動の様子に、司馬さんはふれている。
項羽陣営に反間の計(仲違い作戦)を施す描写の中で、たった一度ですがこのような記述がある。
陳平自身も諜者になり、楚軍の中に潜入し、旧知の者に大金を与えた。
対戦前の強キャラが、一瞬だけそのプレイの片鱗を見せる。
これは「福田吉兆」方式ですね。

インターハイ予選で再び湘北高校と相まみえる陵南高校の新キャラとして登場した、オフェンスの鬼・フッキーが、陵南戦の前に桜木花道と偶然出会った、あのシーンです。
我々がワクワクするあの演出を、陳平のために一章まるまる使うなんて。
福田吉兆方式は難易度が高い
そういえば桜木花道は、公園での初対面では直接言葉も交わさず、近づくことさえしなかった福田吉兆を、試合会場で遠くから見ただけの段階で「あいつはフクちゃんだ」など、最初からかなり距離を詰めた感じで捉えていた。
私はそこに、連載当時から軽い違和感をおぼえていた。
そのあと「フク助」と全く違う呼び名を使っていたことからも、あのとき花道が「フクちゃん」と発していたのはどうにも平仄が合わない気がする。
しかし、あの司馬さんですら陳平を福田吉兆方式で登場させる際には唐突な文章の差し込みをするくらいなのだから、あの方法を使うときに読者に抱かせる違和感はゼロにできないのではないかと思う。難易度高いんですね。
(「唐突な文章の差し込み」については前回記事【項羽と劉邦】陳平にデレる遼太郎①をご覧ください)
なにはともあれ、陳平は初登場での縛りプレイを演じつつも、項羽の唯一の参謀である范増を、まんまと項羽陣営から追い出すことに成功しているのですから、やはりその実力は折り紙付きといってよいでしょう。
この時の陳平さんの活躍は『項羽と劉邦』の中巻に収録されていますので、気になった方は是非読んでみてください
ついでに「イキってる花形と牧」のコマを確認したい方は『スラムダンク第9巻』で見られます。
本当は次章『紀信の悪口癖』での陳平の動きについても言いたいことがあるのですが、それは機会があればということで、今回は割愛します。
<終わり>









