以前に一度記事にしましたが、井上靖の自伝的小説3部作のラスト「北の海」。
主人公の伊上洪作少年が、旧制中学を卒業した後の数か月間を描いています。
身体を使うと腹が減る(天下一武道会優勝後の悟空は50万ゼニー分食べたっけ)
洪作少年が高校受験の勉強のかたわら、母校の柔道部へ通って練習に精を出していたある日のシーンです。
落第して5年生に留まっていた友人の遠山と激しいケンカをします。
すぐに仲直りしたのはいいが、洪作のマネをして宙返りを試みた遠山が腰を痛めて動けなくなる。
仰向けにひっくり返って動けない遠山を道場に残し、洪作は学校を出ます。
見捨てたわけじゃなく、遠山に付き合って一晩道場で寝ることにしたため、下宿へ外泊の断りを入れるためです。
ついでに、遠山に頼まれたあんパンを買い、自身も腹ごしらえをすることにしたのです。
まだ十代の食べ盛り。
稽古後の空腹を抱えているうえ、この日は激しい殴り合いのケンカまでしています。
普段の何倍も体を使った洪作は、井之頭五郎に負けないほど空腹です。
練習後のラーメン2杯が全身の細胞に吸われる
行きつけの中華屋へ足を踏み入れた洪作は、ラーメンを2杯食べます。
これが「腹にしみいるようにうまい」とのこと。
別のシーンでのセリフによると、洪作は普段からこのラーメンを2杯食べていたようです。
それなら、こんなときは3杯食べても良いと思うのですが、この時は待たせている遠山のことが気になっていたようです。
店を出た洪作は、下宿へ行く時間短縮のため、近くにある藤尾という友達の家に自転車を借りに行きます。
藤尾自身は京都の高校へ行ったため不在のはずでしたが、その日にたまたま帰省していたことで、二人連れだって歩き出したと思うと
「ちょっと腹ごしらえしていくか?」
という藤尾の提案をあっさりと受け入れ、さっきと同じ中華屋へ、今度は藤尾と二人で暖簾をくぐる洪作。
「おや、あんたまた来たんか。若い者にはかなわないな」
という店主の言葉が少しこたえたのか、チャーシューメンを頼む藤尾に対し、洪作はシューマイを注文します。
このくだりも、私が大好きなシーンのひとつです。
ここを読むたびに回想してしまう経験があるためです。
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