【感情会計】善意と悪意のバランスシート

善と悪の差し引き感情=幸福度

『井上靖「北の海」の味(2)街の中華屋』

以前に一度記事にしましたが、井上靖の自伝的小説3部作のラスト「北の海」。

 

主人公の伊上洪作少年が、旧制中学を卒業した後の数か月間を描いています。

 

db469buncho.hatenablog.com

 

身体を使うと腹が減る(天下一武道会優勝後の悟空は50万ゼニー分食べたっけ)

洪作少年が高校受験の勉強のかたわら、母校の柔道部へ通って練習に精を出していたある日のシーンです。 

 

落第して5年生に留まっていた友人の遠山と激しいケンカをします。

 

すぐに仲直りしたのはいいが、洪作のマネをして宙返りを試みた遠山が腰を痛めて動けなくなる。

 

仰向けにひっくり返って動けない遠山を道場に残し、洪作は学校を出ます。

 

見捨てたわけじゃなく、遠山に付き合って一晩道場で寝ることにしたため、下宿へ外泊の断りを入れるためです。

 

ついでに、遠山に頼まれたあんパンを買い、自身も腹ごしらえをすることにしたのです。

 

まだ十代の食べ盛り。

 

稽古後の空腹を抱えているうえ、この日は激しい殴り合いのケンカまでしています。

普段の何倍も体を使った洪作は、井之頭五郎に負けないほど空腹です。

 

 
北の海 (新潮文庫 い 7-26)

 

練習後のラーメン2杯が全身の細胞に吸われる

行きつけの中華屋へ足を踏み入れた洪作は、ラーメンを2杯食べます。

 

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これが「腹にしみいるようにうまい」とのこと。

 

別のシーンでのセリフによると、洪作は普段からこのラーメンを2杯食べていたようです。

 

それなら、こんなときは3杯食べても良いと思うのですが、この時は待たせている遠山のことが気になっていたようです。

 

店を出た洪作は、下宿へ行く時間短縮のため、近くにある藤尾という友達の家に自転車を借りに行きます。

 

藤尾自身は京都の高校へ行ったため不在のはずでしたが、その日にたまたま帰省していたことで、二人連れだって歩き出したと思うと

 

「ちょっと腹ごしらえしていくか?」

 

という藤尾の提案をあっさりと受け入れ、さっきと同じ中華屋へ、今度は藤尾と二人で暖簾をくぐる洪作

 

「おや、あんたまた来たんか。若い者にはかなわないな」

 

という店主の言葉が少しこたえたのか、チャーシューメンを頼む藤尾に対し、洪作はシューマイを注文します。

 

このくだりも、私が大好きなシーンのひとつです。

 

ここを読むたびに回想してしまう経験があるためです。

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