物語の6日目 11月14日(月)am 7:30
上目黒のアパートで目覚めた朝倉哲也
日曜の夕方から外出し、午前2時頃に帰ってきた朝倉が眠れたのは、窓の外が白んでくるころです。
ほとんど寝ていませんが、今日は月曜日。
いつもの通り会社に出勤しなければならない。
ハードボイルドな男に「フーフー」「ハフハフ」は許されない
やかんでお湯を沸かし、大きな陶器のカップにインスタントコーヒーを入れ、熱湯を注いで作った一杯のコーヒー。
朝倉はそこに一塊のバターを溶かします。
大藪春彦的世界観では、これを「バターコーヒー」と呼ぶらしい。
そして、かなり熱々の状態で飲んだらしいことが「舌を焦がすようなバターコーヒー」という表現から察せられます。
つまり朝倉は猫舌ではなかった。
まあそうだろうなという感想です。
やはりハードボイルドに猫舌は似合わない。
ハードボイルドは、ハダカの金を持ち歩く
そんなことより問題なのは、手持ち資金が尽きてしまったことです。
やっぱり大トロなんか食べてる場合じゃなかったと、私は思う。
前夜のことを悔いても仕方ないとはいえ、戸棚にももう缶詰は残っていません。
朝倉は残されたわずかな現金を探しておもむろに押入れを開けると、夏服のポケットを探ります。
「エッ? お金をハダカでポケットに入れてるの?」
たしかに朝倉がお金を払う描写の中に、サイフを取り出す記述はない。
ハードボイルドは財布を持たないのだろうか?
服のポケットや机の引き出しを引っ掻き回した結果見つかったのは「2枚の100円玉と1枚の50円玉それに40枚の10円玉」とのことです。
計650円也。
しかし、10円玉40枚って・・
机の上に10枚ずつ四つの山を積み上げて数えたんですかね?
なんかハードボイルドっぽくないぞ!朝倉!
ハードボイルドに「給料の前借り」は許されない
部屋中を漁っても小銭しか得られなかった朝倉ですが、それでも650円あればボロニアソーセージ半キロと卵5個を買っても150円くらいは余る計算になる。
<計算の詳細はこちら⇩⇩>
しかし問題なのは 今日が11月の14日であることです。
給料日まで10日あまりあるというのに、この手持ち資金では朝倉の肉(満腹)ゲージは 満タンの状態を保ってはいられないでしょう。
それでは空腹ダメージでHPが削られてしまう。
⇧画像は「ひきこもろん」さんのサイトより
会社に着き、上司の顔を見たときには、さすがの朝倉も給料の前借りをしようと思いますが、真面目な社員のポーズを崩してはいけないのでその気持ちは抑えこみます。
バターコーヒーの御利益!? まさかの臨時収入
残り650円で、どうやって11日を過ごすか?
一人暮らしの若者に時折見られる綱渡り状態が、朝倉にも差し迫ってきます。
しかし幸運にも、経理部長の横領の証拠に接してしまった朝倉は、口止めがわりに部長から3万円を押し付けられます。
「傷は癒えた!」
岩を握りつぶしたラオウみたいな発言をしたかどうかはわかりませんが、この瞬間に彼の金欠状態が完全に癒えたことは間違いありません。
一時はどうなるかと思われましたが、朝にアパートで飲んだ、舌を焦がすほど激熱なバターコーヒーが、朝倉哲也に幸運を呼び込んだのではないかと思う。
3万円は昼休みに入った早々に手渡されたため、いつも会社で頼む店屋物(安ラーメン)の映像は跡形もなく朝倉の脳裏から消え去りました。
朝倉はこのあと、何者かと密会予定の部長の後をつけ、会社近くの「ピルゼン」というドイツ料理の店に入ります。
部長に見つからない場所に陣取った朝倉は、仔牛の腿のステーキと黒ビールを注文します。
ピルゼンはサラリーマンがランチでドヤドヤと押し寄せる大衆食堂ではありません。
ここで朝倉が注文した黒ビールも、いわゆる”ランチビール”などという申しわけ程度のものではなかったでしょう。
つまり昼間からガッツリ酒を飲んでると判断して良さそうです。
酒飲んで仕事してて大丈夫か?
しかし問題ないでしょう。
アルコール度30以上じゃないと酒とは認めていなさそうな朝倉にとって、黒ビールなんて黒烏龍茶みたいなものです。
<その辺の事情はこちらの記事に書いています⇩⇩>
『孤独のグルメ』でも、井之頭五郎はよくウーロン茶を頼みます。
要はあれと同じです。
月の手取り以上の臨時収入でメシを買うハードボイルドなショッピング
部長から口止めがわりに押し付けられた現金は3万円。
朝倉の月の手取り額は2万5千円。
半月後にもう一回給料が出たほどのビッグインパクト。
これは気分もアゲアゲになるでしょう。
しかも普段の手取りより5千円も多い。
「5千円」を朝倉流にボロニア換算すれば5 kgということになりますので、彼は給料+ボロニア5 kgを手に入れた計算になります。
ハードボイルドはスーパーで配達サービスなど頼まない
とにかく久しぶりにお金の問題から解放された朝倉は、アパートへ帰る途中のスーパーマーケットで食料を買い込みます。
この時の表現にも、大藪春彦的世界観が如実に表れています。
アパートへの帰路、朝倉はスーパー・マーケットで十数キロの食料を買い込んでいた」
古紙の回収か何かみたいなゴリゴリの言い方。
「両手に抱えきれないほどの」とか「ズッシリとした大荷物で」みたいな曖昧さは好まないらしいです。
買った内容は
罐詰類とビタミン補給のレモンと安ウイスキー二本が主なもの
お代はいくらだったか?
それで五千円近くの金が消えた
5千円というと、朝倉の月の手取り額の5分の1です。
貧乏サラリーマンの「月の手取り額」基準
私は以前の記事で「安月給でまともな生活ギリギリの、都内独り暮らしのサラリーマンの手取り額は12万円」と規定しました。
<この記事です⇩⇩>
ちなみに内訳を簡単に記すと
家賃&通勤定期券代 ⇒ 7万円
水道光熱費+通信費 ⇒ 1万円
残りの4万円で食費と雑費
朝倉は野望のために身体づくりも必須なので、ボクシングジムに通っています。
酒もタバコも嗜む。
外食の機会も多いし、そして何よりも並外れた大食い。
これではかなり容赦なきKAT-TUN生活になるでしょう。
昭和41年にギリギリでいつも生きている朝倉の手取り2万5千円を令和3年に直すと『月に12万円』というのは、我ながらかなりイイ線なのではないかと思っています。
2万4千円でがっちり買いまショウ
ということで、この1回の買い物で消えた5千円を令和3年に換算すると、12万円の5分の1ですので『2万4千円』ということになります。
(しかし「がっちり買いまショウ」がわかる人が何人いるだろうか?)
(とはいえ、私が『蘇る金狼』の舞台設定と仮定した昭和41年は、リアル「がっちり買いまショウ」が放映されていた頃ですから、朝倉君も見ていたかもしれません)
さて、スーパーで十数キロの食料を買い込んで24,000円ということは、重量が軽めの食材がかなり多かったと想像されます(乾物類とか)。
というのは「主なものが罐詰類」だとしたら、1個当たりがよほど高価なものでないかぎり、24,000円も買ったら十数キロではすまないと思われるからです。
『倍達風』にウォッカを飲む男が「ウイスキー2本」と言ったときの分量は?
それに「安ウイスキー2本」も大いに気になるところです。
朝倉はウォッカをラッパ飲みし、一晩で飲み干すほどですから、ウイスキーだって彼が「2本」と表現するならそれなりの分量がいるはず。
<ウォッカをグイッと飲る場面はこちら⇩⇩>
1リットルくらい入ってればいいかな?
アーリータイムズ(タイムス) イエローラベル 40度 箱なし 正規 1000ml(1L)
いや、たったの1リットルでは、2本では二晩で飲み切ってしまう。
それでは困る。
なぜなら、大藪先生はこうお書きなされているからです。
これで三、四日は食い物の心配はいらない
つまり、今夜購入した食料品は、3~4日は持ってくれないといけない宿命を授かっている。
なら、これでどないや!!
ブラックニッカ クリア [ ウイスキー 日本 4000ml ]
4000ml!さらに倍(大橋巨泉風に)
4リットルウイスキーを2本買い込んだことにして、NETで約8キロ。
幸いこのウイスキーの容器はペットボトルなので、重量はNETと大幅には違わないはずです(昭和41年にペットボトル飲料なんて無かったけど)。
価格は1本4,398円と表示されているので、2本で8,796円。
残りの約1万5千円で罐詰とレモンを合わせて10キロ程度と考えれば、金額と重量は妥当といえるでしょう。
いやぁ~、本当に奥が深いぜ。『蘇る金狼』
※『蘇る金狼』はれっきとしたハードボイルド作品です。