前回までさんざんいじり倒してしまったので今更ではありますが、ここらでいちおうお断りしておきます。言われるまでもなくご存じの方が大半と思われますが、大藪春彦作品の『蘇る金狼』は、れっきとしたハードボイルド作品です。
<あわせて読みたい>
大藪春彦の傑作『蘇る金狼』の主人公・朝倉哲也の食事シーンに徹底フォーカス!
ワイルドな独りメシを初日から追う「孤独なグルメ・蘇る金狼」シリーズ!
<食にこだわる徹底追求>
さらっと説明したワイルド飯の中に、どうしても見過ごせないワンカットが・・。
そんなシーンを、設定に立ち返って徹底検証する ”番外編” !
コーヒーには クリープ バター
さて、大食漢であり、バターひとつとっても常人離れした量を摂取する主人公・朝倉哲也ですが、前回までの記事を書いているうちに、たしかあと2カ所はバターの描写があったはずだとページを戻ってみたら、やはりありました。
野望篇の75ページです。
大きな陶器のコップに入れたインスタントコーヒーに沸騰する湯をそそぎ、それに一塊のバターをとかした
これを“バター・コーヒー”と称しています。
コーヒーフレッシュなどと違い、バターは純然たる乳製品ですから、これはこれでアリかもしれませんが、実際にやったらどんな感じなんだろう・・?
バター 無塩 高千穂バター 業務用 450g 30個 無塩バター 食塩不使用 材料 九州 冷凍 他商品との同梱不可
使ったバターの分量を書いていないのも気になりますが、このシーンの頃の朝倉は活動資金の捻出に苦しんでいましたから、あまり大胆に使えなかったかもしれません。
有楽町のモーニングサービス・バター
続いてページをさかのぼり、同じく野望篇の22ページ。 有楽町そばのモーニング・サービスのグリルでハム・ステーキを頼んだところです。
『マスターは焼きたてのステーキにバターの塊を乗せて、朝倉の前のカウンターに置いた』
モーニングサービスのグリルという形式の店は、現代ではまず聞かれませんが、喫茶店のモーニングよりもしっかりした量があることはたしかでしょう。
この店は、目の前でマスターが調理してくれるようですから、オーダーに変化が付けられると考える余地はあります。
ボロニアソーセージを食するシーンでは、その量は常に「キロ」で表現される朝倉君です。
ハムだって当然キロ単位のはず。
そうでないと、朝倉のパラメータの肉ゲージがピンチになります。
HPゲージが空腹によって削られる事態を招くことでしょう(プレイ経験がないのにマイクラが頭から離れない私)。
そういう事情でキロ単位のハムがオーダーされ、次はバターです。
『バターの塊』の分量が数値で書かれていません。
普通はステーキ類に落とすバターと言うと、小さな直方体で重さは8〜10グラムといったところでしょう。
しかし、仮に8グラムだとすれば、朝倉のバター度量衡を発動するなら「たったの0.018ポンド」にすぎません。
もはや、毛穴から吸い込んで無くなるレベルの微量です。
朝倉ともあろう男がそんな量で引き下がるはずがない。
「オヤジ。バターは半ポンド落としてくれ」
「・・・あいよ(引)。お代はその分上乗せだよ」
「わかってる。そんなことより、溶かさないでくれよ」
「だってお兄さん、それじゃデカいカタマリのままだよ」
「・・・(無言でにらむ)」
「悪い事は言わないよ。やめときなって。朝からそんなにさ」
「オヤジ、ハム1キロ追加だ。バターは半ポンド追加で1ポンドにしてくれ」
そんな、店の冷蔵庫のバター残量が気になる展開であったことを、私は勝手に望んでいます(あり得ないけど)。
大藪さんファンの方々、申し訳ありません。