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展開に魅力あり!! 胡桃沢耕史「翔んでる警視 第Ⅱ巻」

踊る大捜査線】の中で、「犯人は刑事に恨みを持つ者」という仮説に基づき、自分を狙う可能性のある、かつて逮捕した相手の特定に血眼になる刑事たちの中で、青島俊作だけは平然と構えている、というシーンがあります。

 

なぜそんな暢気に構えているのかと追及された青島が言った理由は「だって俺は刑事課に配属されたばかりだから、俺が捕まえた奴はまだ(刑務所から)出てきていない」というものでした。

 

この場合は「恨まれて狙われる」という理由でしたが、刑事たる者、怨恨などとは無関係に、捜査されたら困る相手から命を狙われるケースも、きっとあると思います。

 

『翔んでる警視』シリーズの主人公・岩崎白昼夢(さだむ)も命を狙われる経験をしています。


翔んでる警視〈1〉 (1983年) (双葉ポケット文庫)
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超エリートで、頭脳で勝負する彼は、泣く子も黙る警視庁捜査一課・岩崎班の班長です。

普通はそんな地位にある人は、足で稼ぐ現場刑事と共に前線に立つ場面も少ないでしょう。

現場で動き回ることが少ない分、顔が知られる可能性も小さいはず。

 

しかし、私費による独自捜査を頻発する彼は、現場にしょっちゅう出没していることから、犯人と直接対峙する機会が多い。

殺人捜査への情熱が極めて高いのもさることながら、なんといっても彼はまだ20代半ばの若者ですから、行動力が凄まじい。

 

「エリートは弾の飛んでこない安全な場所で、現場の駒を使った詰将棋にうつつを抜かす」などという言葉は、岩崎の辞書には存在しません。

 

ただこの人の特徴として、情報把握の仕方が常人とは段違いのため、常に傍にいる部下の捜査員たちですら、警視が考える事件解決へのアプローチが全く思いもよらないものになります。

それはおそらく、犯人にとっても同様でしょう。

 

そのため、捜査を妨害するために犯人がめぐらす下等な策には到底引っかかりません。

ありきたりな罠をかけても、警視の生命身体に危機を及ぼす効果はなさそうです。

 

解決へのアプローチが高度で、しかもあまりにも素早すぎるので、頻繁に現場に出ているにも拘らず、当然身に及ぶはずの危険が、そのいとますらないといった状況でしょうか。

 

そんな、優秀すぎて危険のほうが追いつけないほどの天才・岩崎白昼夢ではありますが、第2巻では舞台が海外で、しかも後半は僻地での戦いになります。


翔んでる警視〈2〉 (1983年) (双葉ポケット文庫)
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連れてきた部下もわずか数人で、そのほかには現地の警察官が2名のみ。

 

東京にいれば、捜査一課の部下たちはおろか、所轄の刑事たちにもその雷鳴は轟いているため手足には困らない岩崎ですが、いつものパターンは通じない。

にもかかわらず、いつものように果敢な捜査を繰り広げます。

 

しかし、今度の敵は非常に大きい。

 

有力者が有力組織と組んで、巨利や名声のために起こす行動は、甘い汁を吸える関係者たちも多くなるのが自然で、いやがおうにも強敵になり得るうえ、こちらを狙ってくる相手の絶対数が増える。

 

精鋭とはいえ少数で不便な敵地に乗り込んだ天才が、直に命を狙われる中で頭脳の回転を維持し、自分と仲間たちの命を守るだけでなく犯人逮捕にも尽力し、背後にある巨悪を潰しにかかるという、かつてないほどの作品が、第2巻で早くも展開されたわけです。

 

翔んでる警視シリーズは基本的に短編なのですが、これは非常に珍しいことに長編です。

これを読んだ中高生の頃の私は、長編をスラスラ読める自身が無かったこともあり、ずっと後回しにしていたのですが、そんな心配など吹き飛ぶほどこの作品は面白く、手放してから20年以上経っても覚えているシーンやセリフも多く、今回取り寄せて久しぶりにページを開いても、あっという間に引き込まれて行きました。

 

頭脳だけで戦えるほどの天才でありながら、自らの死が予期される危険な相手のもとへ果敢に踏み込む登場人物…

 

なんか、デスノートの「L」が連想されます。

思えばLも岩崎警視も「殺人犯」という敵と戦う男達です。

変わり者という共通性はあれど、性格は全く違う二人。

 

ですが、織りなすストーリーは、いずれも読み手をハラハラさせる上質の活躍という点で共通しています。

 

天才という奴は、キャラ付けを失敗するとすごく浅い物語になってしまうと思うのですが、これはやはり大成功というべきでしょう。