安倍政権に戸惑いや呆れ、失望や絶望、憎悪や怒りなどが渦巻く昨今、かつての名政治家への称賛も増えてくるのが当然といったところがあります。
田中角栄関係の記事がおもしろい
ヤフーニュースからジャンプした「デイリー新潮」というwebサイトに、田中角栄さんの記事が載っていました。
大変興味深く読ませて頂き、また、深い感銘を受けた角栄さんの人心掌握の腕前。
角栄さんが大蔵省の大臣だった時代のエピソードが書かれていて、この記事のタイトルは『官僚の面従腹背をどう防ぐか エリートの心を一瞬で掴んだ角栄の「殺し文句」』
川上徹也さんという方がお書きになった『ザ・殺し文句』という本が題材のようです。
この記事の角栄さんの発言部分から、一部を引用します。
スーパーエリートを一発で仕留めた角栄さんの第一声
44歳で蔵相に就任したときの官僚たちへの挨拶です。
「今日から、大臣室の扉は常に開けておくから、我と思わん者は誰でも訪ねて来てくれ。上司の許可はいらん。仕事は諸君が思うように、思いっ切りやってくれ。しかし、すべての責任は、この田中角栄が負う。以上」
そしてこの記事ではもうひとつ、採用されたばかりの大蔵官僚たちに、角栄さんがかけた言葉が紹介されています。
「諸君の上司には、馬鹿がいるかもしれん。諸君の素晴らしいアイデアが理解されないこともあるだろう。そんな時は俺が聞いてやる。迷うことなく大臣室を訪れよ」
この記事を書いた記者さんは、これら二つの発言を挙げたあと、『ザ・殺し文句』をベースに結論付けています。
2つのスピーチに共通するのは、何かあれば「大臣室に来い」という部分である。
これが官僚への「殺し文句」となったのだ。
これに続き、著者である川上さんの著述の引用をしています。
大臣である田中に、いつでも部屋を訪ねてきてくれ、と言われれば、官僚とくに新人官僚はプライドがくすぐられるわけで、悪い気がするはずがありません。
結果として、官僚には田中シンパが増えていったのです。
とのこと。
私見:官僚が打たれたのはそこじゃない
実のところ、私はこれを読んで全く違う点で「殺し文句」だと思いました。
私も角栄さんのセリフに心を打たれたのは一緒なのですが、箇所が違う。
最初の、自身の就任時に官僚たちに語った話からは
『上司の許可はいらん』
新人の官僚たちにかけた言葉からは
『諸君の上司には、馬鹿がいるかもしれん。諸君の素晴らしいアイデアが理解されないこともあるだろう』
いずれも、「上司との関係は気にするな」と、直接の上下関係をバッサリと切ってあげているという点で、官僚にとっては救いになる言葉だったように思うのです。
これは官も民も関係なく、直属の上下関係は直接的な接点が多すぎて気遣いに骨が折れ、ちょっとした相性ひとつですぐさま確執が生まれたりするストレスフルな関係です。
おまけに、役所のタテ型社会の不文律で割を食いがちな「部下」にとって、タテの関係にはウンザリすることも多い。
そんな中、大臣自らが「上司の許可はいらん」と断言してくれた。
これほど心強いものはない。
上司の存在をすっ飛ばしてよいことが保証されている行為が、職務に関連する形で存在することが、いかに宮仕えの心に響くか?
私は官僚たちが角栄さんになびいたのは「大臣室に行ける」とか「プライドをくすぐられた」ということ以上に『鬱陶しい上下関係のしがらみに対するアンチテーゼ』が大きかったのではないかと思えてなりません。
官僚よりも閣僚が胸を打たれてほしい
いやぁ~、この新潮さんの記事良いですね。
「大臣室の扉は開けておくから誰でも訪ねてこい」「仕事は思うように思い切りやれ」「責任はこの田中角栄が負う」
角栄さんのスカッと爽快な発言。
そして、即実行のスピード感。
なにより、官僚が何に負担を感じて苦しんでいるかを知り尽くしたような「上司の許可はいらん。君らの素晴らしさを理解できん馬鹿がいるからな」
さすがは一介の平民から一国の宰相にのし上がった、低学歴の天下人。
人の心を知り尽くしているなと思わざるを得ません。
こちらのページには他にも面白いエピソードが掲載されていますので、気になった方は是非ご覧になって見てください。