【感情会計】善意と悪意のバランスシート

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孤独なグルメ『蘇る金狼』番外編(3)~缶詰は直火で温めてはいけない

さて、暖房がわりにウイスキーをきこしめすハードボイルド・ガイ、朝倉哲也は、冷え切った11月のアパートの一室で眠りにつきました。

 

その時の詳細を解説したのがこちらの記事です。
blog.dbmschool.net

 

上の記事では「ハードボイルドは暖房を使わない」という主題で書いていたので、重い酒の容器をラッパ飲みする際のエクササイズ効果と、飲んだアルコールの体内循環のことだけしか触れていません。

 

しかし、私がこの11月18日(金)の夜のシーンでもうひとつ気になっていることがあります。

 

 

缶詰3つだったこの日の晩餐には、ある秘密があった

朝倉は安ウイスキーをラッパ飲みするとともに、この日の晩飯を食べている。

 

棚に残っていた三つの鯨の罐詰の蓋を開いて、ガス台の火にかけた

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缶詰の直火加熱はなぜいけない?

ふつう、缶詰には「直火での加熱は避けてください」などの注意書きがされています。

 

缶詰に使われる缶は、時代と共に素材なども変わっていたりするでしょうが、いずれにせよ直接に炎を当てて良いようには作られていないはず。

 

「爆発の危険があります」なんて意見もあるけれど、これはふたを開けないまま火にかけた場合のことでしょう。

 

このときの朝倉はフタを開いてから火にかけているので、これは問題ないとします。

 

もうひとつは、内側のコーティング剤が溶け出して有害物質が食物に混入してしまうからというものですが、「環境ホルモン」という言葉が一般化してきたのは平成9年頃からですから、やはりこれも、朝倉のこの頃の時代では問題視されていないと言えます。

 

量の少なさを熱で補った

問題なのは、大藪春彦先生のこの記述です。

 

胃のなかで落ち着かなかったアルコールも、煮えたぎった鯨肉が胃に送りこまれてくると、ゆっくりと血管にまわりはじめた

 

朝倉は、三つの缶詰に入った肉が、直火の熱が失われぬうちに胃の腑へ送りこまなければならないというミッションを課せられます。

 

『蘇る金狼』の初日の夜のシーンでは、朝倉は食器棚から出したウォッカの瓶とサラミソーセージを、ベッドのそばのサイドテーブルへ運びます。

 

もしもそれと同じシチュエーションで食べなければならないとなった場合、煮えたぎった肉をどうやって運ぶかという問題に遭遇します。

 

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むろん、熱々の肉をお皿に盛りつけ、それをテーブルに運ぶなどあってはならないことです。

 

ちまちました食事の準備など、ハードボイルドの沽券にかかわる屈辱的な姿ですから、朝倉君はそんなことは絶対にしない。

 

やはり直火にかけた缶詰からは、直に取り上げてサッと食卓へ運ばなければ「煮えたぎった状態の保持」とは言えないでしょう。

 

そんなことが、果たしてできるのでしょうか?

 

たとえ手に持てなくても、猫舌でさえなければ・・

直火で煮えたぎる肉を、皿に移し替えたりせず、三つ分まとめて熱々のまま運ぶなんて無理だと、さすがの朝倉哲也でも手を焼くはず。

 

しかしこれには先駆者がいる。

 

朝倉君が猫舌でないことは、過去の記事で書いています。

 

運ばれてきたばかりの出前のラーメンを、40秒で液までも残さず完食できる能力を持っている。

 <朝倉が熱々な食べ物に強いことは、こちらの記事に書いています⇩⇩>

blog.dbmschool.net

 

こんなことは、猫舌には決して出来ぬ偉業です。

 

朝倉は、どんな手段であっても、とにかく口にさえ入れてしまえば、煮えたぎる鯨肉だって食べてしまえるはず。

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(いやそれはさすがにムリだろ・・)

 

さすがに舌ではムリ。やはり手で持たねば

話がそれてしまったので、元に戻しましょう。

 

煮えたぎる缶の中から肉を手づかみで取り出すという難事を可能にした、偉大なる先駆者の、まずはセリフから聞いてみましょう。

 

・・・

・・・・

 

(アレ?)

 

音声さん、お願いします。

例のヤツ

 

・・・・・(アレ?おかしいな)

 

「燃えさかる炎も」

 

アッ、良かった

音出たね

 

 

燃えさかる炎も
この完璧なる肉体を
やくことはできぬ!!

 

わが肉体は
無類無敵!!

 

 

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こうやって肉をまとめてつかめば、朝倉哲也は大藪ミッションのコンプリートが可能!!!

 

三つの缶詰を同時に熱する方法を、科学的に考えてみよう

いや、さすがに北斗神拳を学んでいない朝倉には、あの(⇧)マネはできまい。

 

もう少し現実的な方法を考えなければ、彼は大藪春彦氏の記述したシーンを演じることができない。

 

では、「ガス台の火に三つの缶詰をかける」という記述を見直してみましょう。

缶詰を「かける」と言っていますが、「どうかけた」のかは何も書かれていない

 

しかし、一般的に直火とは「火の上に置く」ことでその効果を発揮します。

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↑こう置けばいいじゃん!という突っ込みはなしの方向で(^^;)

五徳の上に三つの缶を置けるか?

朝倉哲也が住んでいるアパートは、洋間一室のみの質素なもので、部屋の隅に簡単な流し台とガス台が置かれているだけです。

 

古臭い五徳が無造作に据えられているだけの、シンプルなガス台だったことは想像に難くない。

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この「五徳の上に缶を三つ乗せる」ということを、図解にしてみましょう。

 

<図①>

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五徳を『脚1』から『脚5』として、ここに『A缶』『B缶』『C缶』を同時に置いて直火で熱するものとします(図①)。

 

なぜ三つを同時でないといけないかの理由は、文中には順番に温めた記述が無いことと、そもそもハードボイルドの朝倉が「この缶あったまったから、次の缶と乗せ換えよ♥」とかチマチマやってるわけがないという美学による。

 

缶が2個なら問題ない

脚が5本あるから、A缶とB缶は問題なく直火にかけることが可能です(図②)

 

<図②>

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しかし、こうやって置いてしまったら、C缶を置くスペースが確保できません

 

缶が3個の場合のテクニック

このとき最も簡単に思いつく方法としては、A缶かB缶のどちらかをずらし、脚2か脚5をC缶と共有することです(図③)。

 

<図③>

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この形ならば、三つの缶を同時に直火にかけることが可能です。

 

ずり落ち防止に細心の注意を

ただし、この場合、脚2の幅がよほど広くないと、次の問題が生まれます

 

A缶とC缶は脚2を共有するために、それぞれが「ギリギリ、キワキワ」の場所に、わずかに引っかかっている程度の置き方をしています。

 

ガスレンジというのは、点火の時に火口全体に火が伝わり、「ボワッ!」と大きな炎が勢いよく立ちます。

 

それを小さく調整しながら、私たちはガス台を使う。

 

しかしこの場合、「ボワッ!」と炎が立った衝撃によって、A缶とC缶はわずかにひっかけているだけの脚2から落下し、中身をぶちまけてしまうでしょう。

 

火力調整に難あり

つまり、点火直後の強い炎をやり過ごしてから、おもむろに三つの缶を置けばよいことになります。

 

ということは、点火してすぐにつまみを調節して、とろ火くらいの弱い出力にし、缶を置いてから徐々に火勢を強めれば、煮えたぎらせることができる。

 

ベッド脇のサイドテーブルまで運んだ記述が無い以上、朝倉はキッチンドリンカーのごとく、ガス台の前で肉を喰らい、かつ酒を飲んだという図式が成立するはず・・・ですが・・・?

 

 

 

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ハードボイルドが【とろ火】だぁ~?

 

仰る通りでございます・・

 

Get Wild設置でゆくべし

ハードボイルドとしてブイブイ言わしてる朝倉哲也に「とろ火」は似合わない。

彼はどんな時でも『強火』であることに妥協のない男であるはず。

 

ガス台に点火した強力な火勢のまま、そこへ三つの缶を置いていったことは想像に難くない。

 

 

上の図のA缶とC缶の微細な位置取りも、彼の手によって成される偉業(Get Wild設置)のひとつである。

 

目測で捉えたミリ単位の正確な動作イメージを脳内に描き、そのとおりに手を動かせるのは一種の才能です。

 

しかも、それを一瞬で行うことができるというのは、超一流と言ってよいでしょう。

逆に、それができないことには、手が焼けてしまう。

 

朝倉哲也のハードボイルドらしからぬ特技を発見した

このことから類推できる、知られざる朝倉の特性があります。

 

朝倉哲也は体術に優れ、格闘が強いし、銃の腕もたしかです。

他にも、スポーツカー並みに車を扱う運転テクニックもある。

苦境に陥っても素早く頭脳を巡らし、英語もできるという文武両道な男です。

 

そんな「強く、逞しく、それでいてシャープな頭脳」という、ハードボイルドの鏡のようなヤツなのですが、彼には人に言えない地味な特技がある(たぶん)

 

それは・・

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ジェンガ

 

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山崩し

 

そして・・


電撃イライラ棒

イライラ棒

 

朝倉哲也、じつはハードボイルドではないのではないだろうか?

口で言ってるだけなんじゃないの?

 

煮えたぎらせといて、冷ましちゃったんじゃない?


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