さて、前回記事でふれた「三百円分のオデン」についてです。
想像を掻き立てられる表現です。
金額以外が明確に書かれていないだけに、想像の自由度が高い。
・・・
いや、高すぎるだろコレ・・
決め手になる情報がいろいろ不足しているわりに、「三百円」だけが高らかに宣言されている。
たったこれだけの情報をもとに話を展開させるとすれば、いったいどこから手を付けたものか、大いに迷います。
このため、早く書こうと考えつつも、ずっと手を付けられなかった
(赤木キャプテンは ”一年のときからずっと” だそうだが、私は「蘇る金狼」を初めて読んだときからずっと考えていた。もうかれこれ四半世紀に迫る勢いだ←謎のマウント)。
筆が進まなかった理由は、以下の点をどう捉えるかの方針が、なかなか立たなかったからです。
- 昭和41年と現在での物価の違い
- 「おでん」と「その他の外食」における客単価の違い
- 「おでん1人前」の分量
この三つを こじつける 指標にする手段に、かなり苦戦しました。
密接に絡む「1」と「2」をまとめて、そこから「3」を導き出さないと話がつながらない。これは厄介だと・・。
すべては「三百円分のオデン」のために・・
ではまず、昭和41年の物価に関する情報を選別してみましょう。
といっても、記事を書くモチベーションを下げてしまうような、あまりお硬い資料は避けます。
ありがたい物価資料を発見
これは見やすいし分かりやすいし、とてもいい感じです。
(『団塊世代の想い出』様サイト内 昭和の物価より抜粋)
ただし、一応ウラをとってみようということで、公務員の初任給で突合してみます。
これは人事院のサイトで簡単にできます。
https://www.jinji.go.jp/kyuuyo/kou/starting_salary.pdf
人事院資料の一覧表で昭和40年9月の数字を見ると、上の図の大卒、高卒ともに、初任給金額は一致している。
昭和41年の8月までは大卒21,600円、高卒16,100円のはずだから、間違いないでしょう。
(余談ながら、この頃の人事院勧告がどうなっているのかは知りませんが、年度の途中で金額変更されていることから、私が公務員時代にお馴染みだった「12月に給与法が改正され、4月にさかのぼって適用する方式」ではなかったのだろうなと想像しています)
ということで、物価に関する資料の確保ができた時点で
【1.昭和41年と現在での物価の違い】の問題は解消しました。
「おやつは300円以内」のところまで持ち込めれば『勝ち確』なんだが・・
それでは、上の物価資料から「ラーメン70円」を抜き出して、これを「1人前」の基準とします。
本当は「かけそば50円」にも心を惹かれたのですが、タネが何種類もあるおでんのバリエーションの豊富さと比べると、やはりかけそばじゃ弱いかなと・・
そして次にはこちら⇩⇩⇩
【2.「おでん」と「その他の外食」における客単価の違い】
の攻略にかかります。
ここで問題なのは、「ラーメン1人前70円を、そのままオデンに当てはめてよいか?」ということです。
もしも各種の具材価格が明確であれば、苦労はありません。
しかし、昭和41年当時の各種おでんタネの価格を追うことは、非常に困難です。
たとえば蒟蒻芋の値段がわかっても、そこからおでんのこんにゃく一個の値段を導くのは至難の業です。
もしそれが可能ならば、話はラクチン。
小学生時代に培った「おやつを300円以内におさめるテクニック」を駆使して、おでん種の合計が70円になるように具材を組み合わせるくらいは造作もないことです。
しかし、そこがどうしても五里霧中なのです。
ゴリ夢中、、 違うか、、
そういえば赤木キャプテンも「戦いのあとは腹が減るんだ」とか言って、どんぶり飯を5杯目か6杯目あたりも大盛りにしてたっけ。あなどれんな。。
「ラーメン」と「おでん」をドル通貨に見立てる
そこで、「ラーメン1人前」と「おでん1人前」を比較してみます。
これは、そのまま令和4年現在の情報に当てはめることが可能です。
すると、「ラーメン1人前」は ”1食” と考えて差し支えないが「おでん1人前」は、必ずしも「一食分のごはん」とは言えないのでは?という事実に直面します。
市販のおでん種を見ると、たいていは7〜8個で1人前とされている。
そして、カロリーが少なめなヘルシーさが謳われ、「何かと一緒に食べても肥満への影響は大きくない」ことが、そこはかとなく示唆されている。
どうやらおでんは ”1回の食事” というより、副食物というか「ごはんとおかずとおでん」「お酒とおでん」など、何かとのセットで1食になる傾向があるようです。
価格設定もそれを主張していると言えそうです。
どう見ても「ラーメン1杯」より安価です。
レトルトシリーズ「おでん(たまご入り)」380g(1人前)越後魚沼
つまり、同じ「1人前」とは言っても、そこにはうっすらと「おでん相場」とでもいうべきものが存在しているかのようです。
単語は一緒ながら、「ラーメン1人前」と「おでん1人前」の関係においては、あたかも米ドルと豪ドルのような違いが生じていると思われます。
「大衆的なオデン屋」の基準をどこにおくか?
ということで、原作で朝倉が入った店が「大衆的なオデン屋」と表現されているところから、令和4年時点で、ラーメンメニューのある大衆的なお店の見当をつけてみます。
ならばここはやはり、東京23区内でありながら300円台のてもみラーメンが健在の「あなたの街の食卓です」の【福しん】を挙げてみます。(全然知らなかったが、東京23区の北西部あたりでしか展開してないんだな。もっと広範囲だと思ってた・・)
令和4年5月現在、ラーメンメニューのページには12種類の料理が掲載されていますが、ひとつだけ「かた焼きそば」が混ざっているのでこれは除外。
また、チャーシューを乗せたり、野菜をダブルにしただけのものは2品目をカウントせず1品目として考えた結果、ラーメンは以下のラインナップであることが確認できました。
手もみラーメン(醤油) 390円
味噌ラーメン 600円
もやしラーメン 530円
野菜タンメン 530円
みそ野菜タンメン 650円
味玉ラーメン 500円
塩ラーメン 460円
とんこつラーメン 530円
チャーシューメン 630円
マーボーラーメン 650円
五目あんかけラーメン 690円
11種類の平均額は560円。
一方、おでんの例としてこの記事の上のほうで挙げた「開いててよかった」「セブンイレブンいい気分」のおでんは1人前213円。
(使っているフレーズが古すぎて死語化していますが、一応セブンイレブンは【大衆店】のつもりで挙げています)
おでん相場が日の目を見るとき、我々は大藪的世界観の真骨頂を知る
大衆ラーメンの平均的価格と仮定した560円は、大衆的おでん価格213円の、およそ2.63倍。
つまり”米ドル的 1人前” は、”豪ドル的1人前”を2.63個積まないと同じ値にならないということになります。
ラーメン1人前は70円ですが、オデン1人前なら26.625円で済む計算になる。
整数なら27円ですね。
朝倉君が店で食したオデンは300円分ですから300/27=11.111…、およそ11人前ということになります。
原作ではサラッと書いているだけなので、時を経て読む私たちには分量の概念があやふやなものになりますが、やはり半端な量ではなかったことが明らかになってきます。
そしておでん種の個数は1人前につき7~8個。
ということは、300円分を食した朝倉が平らげたおでん種の個数は、なんと77個~88個強というとんでもない数になります。
<次回予告>
熱いうちに急いで食え! オラ、ワクワクすっぞ!
乞うご期待!